147.荒野、入り口での『試し』

 前日にリオンが指摘したとおり、礫岩の荒野前まで俺たちはたどり着いた。

 礫岩の荒野“前”なのは、礫岩の荒野には検問所があり、入れる人間を制限しているためだ。

 巡回警備しているハンターは複数いるが、そのうち1人とリオンが話し込んでいた。


「……『青雷のリオン』さんねぇ。今更、そんなビッグネームが砂礫の荒野に?」


「主な目的は後ろの3人と2匹を鍛えるためである、可能であれば、総てのモンスター、いただいていくであるぞ」


「いや、それは構わないんですがね。後ろの3人にこの荒野を渡っていける実力があるのかと……」


「なんだ、吾輩の目を疑うのかね?」


「リオンさんだって若い頃、ここで崩壊したって聞きましたよ。それを超える実力があの3人にあるのかどうか……」


「試すのは構わんが、怪我をしない程度にな」


「へいへい。……じゃ、行きますか」


 リオンと話していた男の姿が一瞬ブレ、俺との間にアヤネが割り込んでくる。

 あー、俺の素早さでは反応しきれなかったか。


「無事ね? フート」


「ああ、問題ない」


「じゃあ、攻撃よろしく。相手は短剣二刀だっていうのにびくともしないんだから!」


「わかった『灯火の幻影』」


「あー、フートのヤツ、スキルの実験台にするつもりね」


「私だってこの技には苦労しますよ?」


 俺のいた場所から生まれた幻影は周囲を漂い、男を取り囲む。


「魔術師が分身の術? まあ、防御手段としちゃ悪くはねえですが……って!?」


「「「サンダージャベリン」」」


 ネックレスで強化されたことによりバリスタの弾丸並みに太く長くなっているサンダージャベリンを6方向から同時に投げつける。

 男はさすがに肝を冷やしたのか、ギリギリでそれを回避、俺たち全員に向けて戦闘態勢をとる。


「こいつぁ、驚きましたね。魔法を使える実態を伴わない幻影に、俺の短剣をがっちりガードして身じろぎもしないガーダー、その上にアタッカーとしてグラップラーの嬢ちゃんが控えているんですから」


「どう? 降参する?」


「いやいや、アッシにも先輩の意地ってもんがありますや。……第二ラウンドです!」


 そう言うと空中に浮かび上がっている俺の幻影めがけ、男は突撃を仕掛けてくる。

 そして、短剣二刀で切り裂こうとするのだが……。


「!? サンダーハンド!? 坊主、この若さで対接近戦術も覚えてる!?」


「ほらほら、あまり、俺に気を向けてちゃダメだよ」


「何? って!?」


「「「サンダーバレット」」」


 残りの俺からサンダーバレットが雨あられと降り注ぐ。

 この男なら一発二発当たったところで、たいしたダメージにはならないはずだ。

 だが、これだけの弾幕を貼られれば……。


「痛ぇ!? 痛! こんちくしょう!!」


 目くらましにはなるわけだ。

 後はそこに……。


「龍砲・撃!」


「ぬおぅ!」


 チャージを終えたミキが放てる全力の龍砲が炸裂して終了だ。

 ……さすがにこれ以上はないと信じたい。


「あー、わかったわかった降参だ。……つか、何もんだよ。俺、レベル130あるんだぜ? その俺を完封できるって……レベルいくつよ?」


 レベルか……。

 どうせ鑑定されればわかることだし話してもいいか。


「俺は115、そっちの2人は107だったはずだ」


「……にしては十分すぎるほど強かったが……なにか秘密があるんじゃないか?」


 やばい、この人、勘が鋭い。

 さて、どう切り抜けようかな。


「当然であるよ。この3人はここに来る前、ラーヴァタートルとエイスファンを討ち取ってきたほどの猛者である。その能力の一部が、吸収されてスキルに変わったのである」


「あー、それで。さっきの魔法を使う幻影技とか知らなかったわけだ。……つか、リオンさん。さらっと100年以上謎だったエイスファンを討伐してきたっていいました?」


「ハンターギルドにも討伐方法の詳細は報告済みである。……レベル6火魔法を複数回使える魔術師の存在が前提ではあるが」


「いや、歴史に残る発見ッすからね? にしてもエイスファンの力が宿ったスキルか……弱いはずがないよな」


 うん、あちらが勝手に納得してくれた。

 これ以上は突っ込まない方がよさそうだ。


「ただなぁ、魔術師。発動までのタイムラグが気にかかったぞ。今回みたいにしっかりガードされているならともかく、とっさに使えるようにしておかないと真価を発揮できないんじゃないか?」


「あー、確かにそうですね。それができるようになれば、相手の攻撃を躱してカウンターで魔法をたたき込めます」


「そんなスキルを持ってたエイスファンも恐ろしいがな。ちゃんと練習しておけよ。それからグラップラーの嬢ちゃん」


「はい!」


「龍砲を溜めるのに時間がかかりすぎだ。まだまだ使い慣れていないせいだろうが、そののろまなスピードじゃ礫岩の荒野では通用しないぜ?」


「わかりました! 修行あるのみですね!!」


「良い返事だ。……さて、リオンさん天陀で話は聞いていると思いますが……」


「冒険者が数名強行突破したのであろう。生き死にの責任は持たないのである。我々もギリギリのルートを進む故な」


「まあ、死体でも見つけたら弔ってやってください。……サジウス領の冒険者どもだっていうのは調べがついてますんで」


「ここでもサジウス領か。どこに行っても邪魔をするのであるな」


「『冒険者管理区、または、ハンター管理区に無断で侵入したものは救助依頼を出すことができない』、冒険者規定に書かれてるんすけどね」


「査察が入ったのらしいであるが、あそこのギルドマスターは領主とズブズブで騎士団に無条件でBランクまでの冒険者証を渡していたらしいのであるよ」


「……そりゃ規定なんて知らないはずだ」


「まあ、『余裕があれば』助けることも『考慮する』のである」


「よろしくっす」


「そういえば、さっきの戦闘の怪我は大丈夫であるか?」


「それなりに響いてますね」


「フート殿、このものにグレーターヒールを」


「はいよー、グレーターヒールっと」


「グレーターヒールを朝飯前に使うこの少年、何者ッすか?」


「知らぬが花であるよ。それでは吾輩たちはこれで」


「ええ、無理しないでくださいね。救援要請があってもいけるかどうかは運次第ッすから」

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