138.学校見学 その二

「さて、次はどこを回りましょうか」


 通常授業の様子はもう見せたので、今度は実技授業の方がいいだろう。

 そんな中、一番に声を上げたのは宮廷魔術師長のコリンソンさんだった。


「それでは魔法の授業を見せてもらえるでしょうか。なんでもフェンリル学校では、後天性属性覚醒の研究もしているとか」


「さすがに耳が早いですね。よろしいでしょう。確かこの時間は……第1と第4魔法場が使用中のはず。第1は通常の魔力操作と魔法レベルの向上訓練なので、いくべきは第4魔法場ですね」


「……なあ、セドリック校長。魔法場って魔法を練習するための練習場だよな。いつの間にそんなに増えたんだ?」


「教師陣からも、生徒からも要望が多くてですな。理事長が今回のハントに行っている間に倍になってしまいました」


 ……勤勉だなぁ。

 子供たちは魔法が使えて楽しいんだろうけど、教師陣は後天性属性の研究だろうな。


「……フェンリル学校ではそこまで魔法に力を入れておられるのか?」


「まあ、教師陣が実践主義というのもありますが、子供たちも魔法の授業や練習には積極的ですね。元スラムの子供たちですから、将来的には冒険者になる、と思っている子が大半なのでしょう。冒険者になる時に魔法がひとつでも使えればそれだけでも有利ですから。まあ、冒険者にはもったいない魔法使いもいますが」


「ほう、例えばどんな?」


「精霊系四色に加えて回復魔法の使い手です。元は精霊系二色だったのですが、ぐんぐん頭角を現しましてな。まだまだ、全体的なレベルは低いですが、成長すればマルチな魔法使いとしてやっていけるでしょう」


「……精霊四色ですと?」


「その子もちょうど第4にいるはずです。話を聞く時間があればいいのですが」


 話している間に魔法練習場にたどり着いた。

 うん、確かに第1と第4からは練習中の熱気と緊張感がひしひしと伝わってくるよ。


「では第4魔法場に向かいましょう。……魔法の暴発を避けるために、ノックをしてから静かに入るのが礼儀ですよ?」


「わかっております。我々も練習中の私語や魔法以外での大きな音の発生は厳禁ですからな」


「では……ベリト次長失礼いたします」


「あら、学園長。今日はお客様をずいぶん引き連れていますのね」


「はい。それで、皆様にも後天性属性覚醒の授業を見せていただきたく」


「騒がないのでしたら構いませんよ。……ほら、ちょうどあそこの子供が新しい属性に目覚めようとしていますから」


「え? 失礼ですが、どの子供ですかな?」


「青色の光に包まれている子ですわ。どうやら、水の精霊に認められたようです。これであの子の後天性属性は2つめですわね」


「なんと……あの子は指導を始めて何ヶ月でしょうか?」


「学校が始まり魔法系の練習場が始まってすぐからですので三カ月から四カ月程度、でしょうか。なかなか発露しない子もおりますが、あと一歩の子たちばかりですわ。このまま授業を続ければあと三カ月以内には成果を出して見せましょう、理事長殿?」


「はは、ばれてましたか。でも、急がなくていいですよ。後天性属性の覚醒は、今後生きていくための選択肢を増やすためですからね」


「その言葉をいただけて感謝いたしますわ。……ああ、そろそろ、覚醒が始まりますわね」


 先ほど、話に出ていた子供の周囲を青い精霊が飛び交っていた。

 全員が目を見開いているということは、ハイエルフである自分だけが見えている訳ではなさそうだ。

 やがて、精霊たちはその子供の手のひらに集まりひとつの結晶になる。

 そして、その結晶はゆっくりと光の粒になり、子供の体の中に取り込まれていった。


「……あれが後天性属性の覚醒ですわ。ハーツ! 人のいない方向に向かってアクアバレットを撃ってみなさいな!」


「はい! アクアバレット!」


 すると、威力も飛距離も足りないが、確実に水属性魔法のアクアバレットが発射された。

 その様子を見て、周りの子供たちも拍手をしたり喝采をあげたりと大興奮だ。


「……まあ、覚醒したばかりの属性はレベル0とでも言うべき状態ですわ。覚醒したことを確認したら、次はクリスティアーネに任せて実用レベルまで魔法の威力が上がるように特訓ですわね」


「……なるほど。しかし、後天性属性の覚醒に立ち会えるとは……なんと幸運な」


「タイミングが良かったのは否めませんわね。ですが、後天性属性の覚醒だけでいけば、一回の授業で2人か3人は目覚めてますのよ?」


「な……そんなに?」


「ええ。……そうだ、理事長もいることですし、この後は『精霊の住処』に来ていただけます?」


「『精霊の住処』?」


「あっと、失礼。私たち魔術師が研究棟として借りている研究棟ですわ。いつの間にか生徒たちから『精霊の住処』と名付けられて、私たちもそう呼ぶようになり……」


「わかりました。俺も魔法学学長には挨拶がしたかったですし構いませんよ。皆さんはどうしますか?」


「我々も是非お邪魔したいですな」


「ご迷惑でなければ是非」


「ではもう少ししたら授業も終わります。そうしたら……ああ、もうひとり属性に目覚める子がいますわね。今日は調子がいいのかしら?」


「吾輩、フート殿が来ているせいだと思うのである。フート殿の周りには常に精霊たちが喜んで飛び回っている故」


「……否定できないな」


「教師殿、あの、五色の光が混じり合った覚醒は何の属性が目覚めるのでしょうかな?」


「ああ、回復属性ですよ。大抵の子たちが最初に目覚めるのも回復属性なんです」


「は……いまなんと?」


「回復属性が一番目覚めやすいんですよ。いま、最新のレポートにまとめている最中ですが」


 無事、その子の回復属性への覚醒も成功しライトヒールが使えるようになったところで授業終了。

 聞いてみれば、このクラスの半数以上が回復属性もちなんだとか。

 驚いていたのは宮廷魔術師長と随伴していた魔術師たちが一番だったけど。


「こちらが『精霊の住処』になりますわ。……お客をお招きできるのが応接室しかないので、狭いですがご了承を」

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