119.ブリーフィング
さて、十分な休養もとりアヤネの堅牢も完全回復したようだ。
そこで、俺たちは最後のブリーフィングを行う。
「最終確認ですにゃ。今日の獲物は【炎熱の息吹】ラーヴァトータス、レベル130の強敵ですにゃ」
「強敵ねぇ。でも私たちならいけるんでしょ」
「油断してはいけませんにゃ。ヤツの身体は体高10メートルはありますにゃよ」
「……それ、聞いてないわよ、ネコ」
「いってませんものにゃぁ。体高10メートルあったところでヤツにできる攻撃パターンは、マグマブレス、溶岩弾発射、かみつき、踏みつけ、ストンピング。この5種類に過ぎませんにゃ」
「十分脅威だと思いますよ、リオンさん」
「アヤネ殿の素早さなら全部なんとかなりますにゃ。後方に誰もいなければマグマブレスも走って回避してもらって構いませんし、溶岩弾も受ける必要はない……というか、これは回避してくださいにゃ。かみつき、踏みつけは防御でもいいですにゃ。問題のストンピングは、ジャンプして相手を押しつぶす攻撃ですが……」
「隙だらけなのね」
「フート殿以外は危ないので攻撃禁止ですが、躱すのは余裕ですにゃ」
「なんだかいけそうな気がしてきた!」
「いってもらわないと困るのですにゃ。この程度の小物、アグニと比較できませんにゃ」
「……それもそうよね。私たちの最終的な討伐対象ってアグニなのよね」
「はいですにゃ。気合いを入れるのですにゃ」
「オッケー。私は大丈夫よ。他の皆の行動は?」
「吾輩とミキ殿は尻尾と後ろ脚を攻撃ですにゃ」
「尻尾と後ろ脚……ですか?」
「柔らかいのは尻尾と脚なのですが前脚はアヤネ殿の邪魔になるので手を出せませんにゃ。なので後ろ脚ですにゃ」
「はい、わかりました。気をつける点はなんでしょう?」
「やはり、後ろ脚での蹴りと尻尾の振り回ですかにゃ。回復はなるべくアヤネ殿に集中させたいので、吾輩たちは安全第一で行きますにゃよ」
「はい! 安全第一ですね!」
「そうですにゃ。……ああ、それから甲羅は普段攻撃しちゃダメにゃ。マグマの塊なのでやけどではすまないにゃ」
「……それは熱そうです」
「まあ、その辺もフート殿と相談にゃ」
「今度は俺の番か」
「はいですにゃ。まず、ラーヴァトータスは侵入者が入ってくると、すぐにマグマブレスで焼き払おうとするにゃ」
「それってアヤネの仕事じゃないか?」
「そうよ。私が守るところでしょう?」
「アヤネ殿にも守ってもらいますが、まともに防御したらいきなり堅牢を失った上にアヤネ殿が大やけどですにゃ。プラーナとフェアリーヒールがあれば即戦線復帰できますが、その隙が痛いですにゃ」
「了解だ。どうすればいい?」
「吹雪の魔法って使えますかにゃ?」
「レベル6の水魔法でいいか?」
「十分ですにゃ。腕のいい魔法使いがパーティにいると楽でいいですにゃ」
「で、俺の役目は吹雪の魔法でマグマブレスを相殺することか」
「話が早いですにゃ。できれば、マグマブレスを撃つたびに吹雪の魔法は使ってほしいですにゃ。……広範囲魔法ですよにゃ?」
「大海嘯より広範囲だぞ」
「それなら安心しましたにゃ。それから溶岩弾やラーヴァトータスの体がマグマで包まれたときも吹雪で冷やして欲しいのにゃ。結構忙しいと思いますがいけますかにゃ?」
「応相談だな。吹雪の魔法……ホワイト・アウトはいままで使ったことがないから30秒に一回しか使えない。そして、その洞窟の奥って溶岩だまりとかそんな感じだろう?」
「溶岩だまりとまではいきませんが……かなりの熱量を持った地域ですにゃ」
「そうなると、水の精霊から助力を受けるのが厳しいんだよな。MPが無くなることは無いと思うが……」
「あまり長々と戦ってもいられないというわけですにゃ」
「そうなるな。ところで、レベル7の水魔法って使っていいのか?」
「構いませんにゃ。使えるのですかにゃ?」
「ああ、使えるぞ。……そうだな、ホワイト・アウトも含めて、先に詠唱句付きの魔法を一回使っておくか」
「そんなことしてMPは大丈夫かにゃ?」
「んー、すぐに回復するから平気? ホワイト・アウトは1,500しか消費しないし、アイスコフィンやマリナ・ジェイルも3,000だしな。使った後に1分程度じっとしていれば回復するよ」
「……フートさん、いまの最大MPってどれくらいですか?」
「11万ちょっとかな」
「MPが切れる前に私たちがバテるわね」
「そうならないようにエイルも準備しておくよ」
「……そうしてくださいにゃ」
「じゃあ、詠唱句、始めようか。〈我が誘いは氷の乱舞なり。風は荒れ、すべてのものを凍てつかせん。その力はすべての水に宿りし精霊のもの、その思いは我が統べるもの。すべてのものを純白の息吹に包み込まんがため、いまこのときこの場にて吹き荒れよ!! ホワイト・アウト!!〉」
俺の詠唱が終わるとともに辺りを吹雪が覆い包む。
うん、完璧だ。
「……これならば、さすがの溶岩亀もなんとかなりますにゃ」
「次いくぞ。〈其方ありしは深淵の奥なり。ただただ静寂のみが支配する絶対なる聖域。其方を作るは精霊の力。吾が願うはその現し身。海底よりも深き場所にある深淵の檻。塞げ! 静寂を乱す愚かなるものを飲み込むがいい!! マリナ・ジェイル!!〉」
今回はマリナ・ジェイルを空撃ちしてしまったため、地面から8本の腕が出てきた以外目立った動きは無かった。
だが、俺の意識に囁きかけてきた精霊によれば、本来はあの腕が獲物に巻き付き、水圧で締め付けるのだという。
見た目よりもはるかに恐ろしい魔法のようだ。
「最後。〈いずこからきたれりや凍える大地よ。水の精霊は喜び飛び交い、白き軌跡を我らに見せん。我が望みしは凍える墓標。我が敵に久遠の眠りを与える氷瀑の檻。包み込め! 我が仇敵のすべてを凍てつくさんがために!! アイスコフィン!!〉」
今度は空撃ちでもわかりやすい変化があった。
何本もの氷の触手が空間に巻き付きやがて巨大なオブジェと化す。
そして、それはひびが入るともろくも崩れ去った。
いまのがアイスコフィンだろう。
「頭が痛いですにゃ~。儀式魔法を平然とひとりで使いこなす技能もそうですが、消費したMPを1分で回復してしまう回復能力も異常ですにゃ~」
「それくらいの化け物じゃないとアグニには届かないさ。マキナ・トリガーだってどこまで通じるかわからないし」
「ニネットがあれだけ心血を注いで作った魔道具で増幅されたレベル8魔法すら効かないとか、悪夢でしかないにゃ~」
「ほれ、他にブリーフィングすることは?」
「いまのフート殿の魔法を見て作戦変更ですにゃ。あの亀の弱点は水魔法ですにゃ。なので、フート殿は隙があったらマリナ・ジェイルでヤツを攻撃してくださいにゃ」
「了解。ちなみに、雷魔法っている?」
「……ヤツは火と土を吸収、雷を無効化するんですにゃ」
「そっか、風は?」
「微妙ですにゃ。……ああ、テラとゼファーですにゃ?」
「そう、連れてくべきかと思って」
「難しいところですが……今回は見送りですにゃ。テラは無力ですし、ゼファーも腐食のブレスはおそらく意味をなさないにゃ。回復のブレスは期待できますが、狙われる相手が増えると……」
「防御の負担も増えると」
「そうなってしまいますにゃ」
「そういうことらしい。大人しく待っていてくれよ、テラ、ゼファー」
「「ウォフ!」」
「さて、準備はもう大丈夫か?」
「大丈夫ですにゃ。あとは出たとこ勝負ですにゃ!」
「そうね。いきましょうか」
「はい!」
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