105.ハンターギルドにて 後編

 さて、指導戦が終わり感想を言う場面なのだが……。


「お前ら情けないぞ! いくら『白光』の二つ名もち相手とは言え一撃決める程度の気合いは見せろ!


「でも、なぁ……」


「いうのは簡単なんですが……」


「実際に戦って見ると違いますよ」


「ふん、あんなデタラメな魔術師がいるものか!」


「ったく、おまえらなぁ、せっかくCランク上位勢と戦わせてやったんだぞ」


「あれ、俺たちってCランク上位だったの?」


「そりゃそうだろ。未発見モンスターをそのまま討伐してくるとかBランクでも難しいよ。まったく、リオン、こいつらに常識をもっと教えてくれ」


「常識はときに足を引っ張る故なぁ」


「……まあいいか。フート、各自に対して講評は?」


「そうだな……まずタンクの君、君がウロチョロ動き回ったら後衛陣が攻撃しにくい。自分の攻撃は牽制でいいんだから相手の動きを止め、自分も動かないよう努力するように」


「はい!」


「ストライカーは……ちょい、焦って攻め込みすぎたかな。タンクが押さえられないのはわかっていたけど、なにも相手が動きを見る余裕が残っているときに仕掛けてくる必要は無かった。もっと息を殺してタイミングを待つのと、奇襲時には一気に大技を出せるようにすることかな。ただし、その一撃で終わらずに連打ができるように」


「わかりました。ありがとうございます」


「アーチャーは急所狙いの一撃が目立っていたな。アタッカーとしては正解なんだろうが、このパーティーにはストライカーもいる。彼との連携を意識すべきだろう」


「連携、ですか?」


「例えば、敵の足元を狙い相手の意識を分散させるとかだ。相手が守らなくちゃ行けない場所が増えれば崩しやすくなるぞ」


「なるほど……わかりました!」


「で、最後はスペルキャスターの君なんだが……」


「ふん、シャーマン程度が余計な口出しをするな!」


「グレゴリオ!! すまねぇ、コイツにはちゃんと言い聞かせるから……」


「言い聞かせるだけ無駄だと思うが。初手がフレイムランスなのはまだ良かった。誰かを巻き込む恐れが無かったからな。それはいいとして、問題はエアスラッシュだ。あの魔法は着弾時に着弾対象の周囲を切り刻む魔法だ。あの距離では倒れていたタンクも巻き添えにするところだった。それがわかっているのか?」


「フン、戦闘不能の仲間にさいてやる意識などないのでな! それよりもお前だ! たかがシャーマンのくせにあのような魔法を次々使うとは、どんな小細工をした!」


「グレゴリオ!! いい加減にしろ!」


「小細工もなにも。俺は精霊系五色シャーマンだ。すべての属性魔法を扱えて当然だろう。それ以前に、相手の扱う魔法の種類を調べていない時点でその怒りを向けるのは失格だけどな」


「くっ! シャーマンの分際で……」


「ともかく指導戦は終了だ! ニコレット、すまないがこいつらを宿まで連れて行ってくれないか?」


「構わないが……治療の必要は?」


「そんなん、必要ねぇよ。その必要が無いように手加減されてたからな」


「ばれてたか」


「というわけで、お前らは宿に戻って言われたことをしっかり考えろ。特にグレゴリオ! お前は今回の戦いあまりにもひどかったぞ! 場合によっては仮資格剥奪があることも忘れんじゃねーぞ!!」


 そうして、新人4人たちは宿……おそらく俺たちが最初に泊まった宿に連れて行かれた。

 残ったメンバーは再会を祝しての宴席となったのだが。


「お、あんまり食事が進んでねーじゃねーか?」


「こちとら、お前みたいな強心臓じゃ無くてね」


「……ああ、新人どものことか。気にすんな、というのもあれだが、本来この時期に入ってくる新入りなんてこんなものさ。お前らが異常だったんだよ、異常」


「自分たちが常識の枠に収まってないのは理解していたが……あそこまでとは」


「そもそも、ランク決めの模擬試験であんだけ動ける新人なんて普通いないぞ? アヤネだって防御は完璧だったし、ミキも攻撃に対する意識は貪欲だった。極めつけにお前は五色シャーマンだ。ありえねーよ」


「そんなものか」


「そういうこった。ニコレットがサポートしてくれてるはずだし、俺たちは存分に食おうぜ!」


「ここにニコレットさんがいないのも気が引けるんだが……」


「んなもん、途中で合流するよ」


 宴席を始めた俺たち。

 しばらくして俺に声をかけてきた人物がいた。


「あー! こんなところにいましたよ! ようやく見つけました!」


「お前は……天陀のテイマーギルドの」


「グラニエです! 会報を見ればあのときのレッサーフェンリルちゃんたちがフェンリルに進化したって聞くし、もう、天陀のギルドはその話題で一杯です!」


「あーなんかすまないな」


「すまないと思うなら、フェンリルちゃんたちを見せてください!」


「構わないぞ。テラ、ゼファーよろしく」


 訓練場を出る前に俺の魔法を腹一杯食べて眠くなっていた二匹に声をかけると、のっそりとした足取りではあったがテーブル下から現れた。


 そして。


「「アォン」」


軽く鳴き声ひとつで体がみるみる大きくなっていきフェンリルに変わったのだった。


「おお、これがフェンリル……うちのレッサーフェンリルとは全然圧力が違いますね」


「これでも押さえ込んでる方なんだぞ。客を驚かせないために」


「なるほど……完全解放のフェンリルちゃんも見たいんですがスケジュールは……」


「こんなところにいたのね、グラニエ!」


 響いてきたのは天陀のハンターギルド、ギルドマスターシーブさんの声。


「……あら、これが噂のフェンリルね。確かに強そうだわ」


「でしょ、でしょ! なのでこの子たちに会うための休暇を……」


「そんな余裕はないの。早いところ用事を済ませて天陀に帰らないといけないんだから。それじゃ、皆さん、これで失礼」


「ああ、フェンリル様~」


「……なんかかわいそうだったな」


「仕方が無いさ、仕事みたいだったし」


 その後、ニコレットさんも無事に合流。

 食事会はほどよい時間まで続けられたよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る