39.生活拠点はどうする?

「フート殿、大変だにゃ! あの宿が使える期間が残り一週間になってしまったのですにゃ!」


「おちつけリオン。そもそもあの宿っていつまで使える予定だったんだ?」


「はいですにゃ。あそこは新人が共同生活を行うための宿ですにゃ。あそこにいられるのはランクGからランクEまで、期限は三年間となっておりますのにゃ」


「……おれら、ランクCだし出て行かなくちゃいけないんじゃないのか?」


「それはそうなんですが、お三方にはこう、ちょっと特殊な事情といいますか……」


「なんだ?」


「まあ、ぶっちゃけますと大抵のことは三人で片付けてしまいますのにゃ。だから、仲間作りのためにもあの宿にいることはプラスになると思うのにゃ」


「うーん、そうは思えないけど」


「どうしてですにゃ?」


「俺たちって曲がりなりにもCランクだろ? そんな人間が加わったら、自力でクエストクリアすると思うか?」


「……それもそうですにゃあ。じゃあ宿を引き払うのは問題なしと。ああ、あとで新しい宿を紹介してもらうにゃ。吾輩たち、女性陣がいる以上、あまり安宿には泊まれませんにゃ」


 宿のことについてそうこう話しているうちに、会議室のドアが開いた。

 ゲーテさんとアヤネ、ミキの話し合いも終わったようだ。

 ふたりの顔を見る限り、まだ他の方法を探しているみたいだけど。


「あら、リオンにフート君、帰ったんじゃなかったの?」


「ちょっと用事がありましてにゃ。フート殿を捕まえて話をしていたのですぞ」


「あの、話ってなんでしょうか」


「ああ、ふたりにも関係ありますな。いま使っているあの宿ですが、一週間後には出なければいけなくなってしまったのですぞ」


「そうなの? 初心者冒険者のためにあるって聞いてたんだけど……」


「お三方の場合、ランクがすでに中級どころか上級レベルですからなぁ。仕方のないことですにゃ」


「ふーん、そうなると次の物件を探さないといけないわね」


「そうなりますにゃ。ゲーテ、よろしく頼めるかにゃ」


「任せて。……っとその前にフート君は買い取りカウンターに行ってきてね。昨日の買い取り依頼の結果ができてるはずだから」


「了解。ちょっといってくる」


 そしてやってきた、買い取りカウンター。

 暇そうにしている受付さんに声をかけると、すぐに対応してもらえた。


「フートさんですね。こちらが買い取り一覧表になります。……それにしても、よくもまあ、これだけの素材を集めましたね。一体どこに遠征してきたんですか?」


「灰色の森と魔黒の大森林の間にある死道で二週間近くサバイバル生活」


「……なるほど、合点がいきました。今後はそんな無茶はしないほうがいいと思います」


「やっぱりそう思うよな」


 とりあえず買い取り一覧表を確認して、昨日アイテムボックスから出したアイテム数と相違ないか確認。

 問題ないので、これを受付に持って行けば現金と変えてくれるという。


 そして、再びゲーテさんの待つ受付へと移動した。


「買い取り表はもらってきましたか?」


「ああ、これだ」


「はい、確認しますね……これは……すみません、一度私と一緒に来てもらえませんか?」


 ゲーテさんに案内されたのはいつものギルドマスタールーム。

 入室の許可をもらうと全員で中に入る。

 そこには、涼しい顔で書類仕事をこなすユーリウスさんと、逆に難航しているブルクハルトさんがいた。


「おや、四人とも。なにかありましたか」


「ええ、実は、昨日フートさんが買い取りに出したアイテムについてちょっと……」


「アイテムの買い取りだぁ? そんなのハンターなら誰でもやってることだろうが」


「なになに……なるほど、これは問題になりそうですねぇ」


「あ、どういうことだ?」


「持ち込んだ、アイテムの種類も量も多いということです。なにも考えずに市場に放出してしまえば値崩れを起こすでしょう」


「じゃあ買い取り不可ってことか? それはハンターギルドの沽券に関わるぞ」


「そんなことはしませんよ。幸い、ほとんどのアイテムが適切に保存しておけば劣化なしで保存できます。それも簡単にね」


「それなら、問題ねぇってことか」


「ええ、まあ。問題は買取額の総計の方なんですよねぇ……」


「総計額?」


「フートさん、読んでなかったんですか?」


「……いや、面倒だったからアイテム一覧と、渡したアイテムに齟齬がないかだけしか確認してないや」


「ふぅ……いいですか、総額150万レイです。細かいところもありますが大雑把に言えばそれくらいの額になります」


「150万ですか……」


「三人でわけても50万よね……」


「さて、どうしたものか」


「そんなに悩むことはねーんじゃねぇのか?」


 気軽に声をかけてくれたのはギルドマスターだった。

 なにか妙案でもあるのだろうか?


「例の宿を出て行かにゃいけない話はこっちにも上がってきてるぜ。制度の不備でスマンかったな。それでだ、その金で家でも買ったらどうだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る