子鬼の大乱・邦奈良との絆

家?家・家

38.ハンター生活スタート!

 騒がしかった歓迎会から明けて一夜、俺はむくりと目を覚ました。

 時間が午前一の鐘のころ。

 しばらくこの時間に起きることに慣れてしまっていたので、今日も目が覚めたというわけだ、

 同室のリオンはまだ寝ているし、この調子だと女子ふたりも寝ているだろう。

 俺は書き置きを残し、装備を調えたら静かに部屋を出るのだった。


「あ、おはようございます」


 ドアを開けるとそこにはミキの姿があった。


「朝早く目が覚めちゃって、行き場所もなかったんですよね」


「まあ、俺も一緒だな」


「それじゃあ、どこかに一緒に行きませんか?」


「いいぜ。……といっても、行ける場所なんてハンターギルド位なんだが」


「ですね。それでも私はかまいませんよ」


 こうしてミキとふたりでハンターギルドに向かうことに。

 ハンターギルドではすでに何組かの先輩ハンターたちが待機している。

 そして、掲示板に今日追加の依頼リストが追加されるとゆっくりと立ち上がり、それらを吟味し始めた。


「フートさん、ハンターギルドって依頼票の取り合いって少ないんですね」


「少ないっていうか、この様子だとそもそも奪い合いなんて起きないだろう」


「まぁ、初めてハンターギルドにくる子たちはみんなそう思うわよねぇ」


「うわっ!」


「きゃっ……ゲーテさんですか。驚かさないでくださいよ」


「いやー、初々しいと思ってね。発情期の告白もまだらしいし」


「それは忘れてください!」


「まあ、いいわ。依頼の取り合いだけどもね、まず起こらないわ。起こるとしても下位ハンター同士ね」


「そうなんですか?」


「上位ハンターともなると自分の得意な戦闘スタイルが決まってくるのよ。空戦タイプが得意とか、陸上の大型種が得意とか。だから、それに見合った獲物を探しに来るといったところかな」


「へー。でも、ハンターギルドの依頼って放っておかれたら困るんじゃ……」


「そういうのは緊急依頼として強制的にパーティを集めるわよ。……もっとも、そんな依頼は冒険者ギルド向きなんだけどね」


「そうなんですね」


「あっちの方が報酬は安いし人数は集まるからねー。烏合の衆が多いけど」


「……ゲーテさんも辛辣ですね」


「まあねー。あ、発情期のあれこれ聞きたくなったら受付にいらっしゃいな。個室を取って相談に乗ってあげるから」


「……よろしくお願いします……」


 見ればミキの顔は真っ赤になってる。

 発情期ってすなわちアレコレをしなくちゃいけない期間なわけで……まあ、そうなるか。


 そろそろ宿に戻ればみんな起き出している時間なので、ゆでだこミキを連れて宿まで戻る。

 男子部屋に行けば、レッサーフェンリルたちはもう起きてたし、リオンも起きてはいた。


「どうしたよ、リオン」


「面目ない、二日酔いにゃ……」


 というわけでこっちは二日酔いが一名いたが特に問題はなかった。

 うーうーいいながら装備を身につけるリオンを急かし、身だしなみも整えて廊下へと出る。

 そこにはすでに、ミキとアヤネのふたりが待っていた。


「どうしたのよ、ふたりとも。フートはとっくに身支度できてるって聞いてたけど」


「そこのネコが二日酔いでなぁ……」


「……大丈夫ですかリオンさん」


「あまり大丈夫と言えないにゃ……」


「こりゃダメね。今日の予定ってなにかしら」


「えーと、ギルドマスターからギルド証を受け取って、ゲーテさんからギルドにおける諸注意の説明だったかな」


「じゃあ、リオンがいなくても大丈夫ね」


「そんな殺生にゃ……」


「……フート、二日酔いを覚ます回復魔法なんてあるの?」


「レベル5の魔法ならいけるかも? 2と3は毒消し専門だし」


「じゃあ人体実験といきなさい」


「はいよ。プラーナ」


「……おお、気分が大分しゃっきりしましたにゃ!」


「大分なんだな」


「これでももう大丈夫ですにゃありがとうございますにゃ」


 リオンが元気を取り戻したことで朝食へ。

 ミキは相変わらず小食だったけど、少しでも直そうとがんばっていた。

 なお、レッサーフェンリルたちには食事をたっぷり食べさせたあとお留守番を命じた。

 いきたそうな顔をしていたが、今日は手続きがらみの話が多く、邪魔になりそうなので留守番だ。


 そして、再度ギルドへと向かい、今度はギルドマスタールームでギルド証を受け取ることになる。

 ギルド証は銅製の腕輪だった。


「ギルドマスター。それって本物の銅ですか?」


「詳しくは知らん。銅を模したなにからしいがな。そうじゃないと雷属性魔法や火属性魔法を受けたときにひどい目に遭うからな」


「それならいいんですけど。それを腕にはめればいいんですか」


「ああ、右腕左腕どちらでもいい。自分の邪魔にならない方にはめてくれ」


 そう促されてはめ込んだのは全員左腕。

 なんとなく流れではめ込んでしまったが、本当に金属製ならハイエルフの呪縛で身体能力が極限までダウンするところだった。

 それが起こらない、ということは金属に似せたなにかということなんだろう。


「さて、ギルド証の授与はこれで終了だ。あとはゲーテからギルドについての説明を受けてくれ。……ああ、そうだ。お前が持ち込んだ黒熊? のオークションだが来週末に開催されることが決まったぞ。値段次第ではウハウハだな」


「そんなに稼ぐ気もないんですけどね……」


「ハンターは身体が資本だ。いつ何時働けなくなるかわからん。それまでに蓄えを用意しておくのは悪いことじゃないぞ」


「わかった。気をつけるよ」


「そうそう。そのギルド証だが金のやりとりをできる機能もついているぞ。ギルド証の中に金を蓄えておいて、必要なときに相手の認証機にかざすと支払いが完了する仕組みだ。仕掛けはよくわからんがな」


「でたよ。謎技術……」


「うむ。俺からは以上だ」


 ギルドマスタールームをあとにして、ギルド2階の小部屋に移動、ここでゲーテがギルド規定と呼ばれる決まり事の説明をしてくれた。

 といっても、重要なところだけ、抜き出しての説明だったので非常にわかりやすい内容だった。

 主な内容は、ハンター同士のケンカは御法度、仕掛けた方は最悪ハンター証の剥奪もあり得る。

 街中での乱闘の禁止。先に武器を抜くのはもちろん禁止だが、先に抜剣された場合では自己防衛のためこちらも応戦してもよい。

 冒険者ギルドとのみだりな接触の禁止。これは意外だったが、冒険者ギルドの、特に若手はなにも考えずに獲物を狩るときが多いらしい。

 そうなると魔物の生息域が広まったり狭まったりと移動するため、冒険者ギルドの面々を見かけたらすぐに引き返すことが推奨なのだとか。

 実際、過去にも冒険者ギルドが討伐に失敗した怪鳥を待ち構えていたハンターギルド員が仕留めたという事例があったそうな。

 その場合、当然揉めることになるが、上層部同士の話し合いでけりが付くらしい。

 大抵は10対0で。


 そのため、冒険者ギルドから見たハンターギルドの印象も最悪なんだとか。

 ケンカは当事者同士でやってもらいたいものだね。


「さて、以上がおおざっぱな説明になります。質問はありますか」

「いいや、俺からはなにも」

「私からはひとつ、冒険者ギルドの連中に絡まれたらボッコボコにしていいってことでしょ?」

「……限度は考えてください。あなた方は新人でもCランクなんですから」

「私からはありません。貴重なお時間、ありがとうございました」

「いえいえ、こういった業務も受付の仕事ですから。なんなんでしたら、このまま、発情期の相談に乗りますよ」


 ゲーテさんの視線が早う出て行けと刺さってくる。

 仕方がないし、女性陣を残して部屋をあとにした。

 そこでは、リオンが待ち構えていた。


「フート殿、大変だにゃ! あの宿が使える期間が残り一週間になってしまったのですにゃ!」

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