32.死道での稼ぎ
「さて、フート。さっき黒熊という単語が聞こえたが詳しく話を聞かせてもらえないだろうか。あと、樹海の中で拾った魔石もまとめて買い取るとしよう」
黒熊……黒熊ね。
あいつのことだな。
一応、あんな危険なヤツがいたことは情報共有しておいた方がいいか。
「えーと、森で出会ったフェンリルは『シックスアームズダークベア』って呼んでましたけど」
「『シックスアームズダークベア』か……六本の前脚に赤い目、強靱な肉体に鋭い爪を持つモンスターで間違いないな?」
「んー多分そうだと思いますが……俺らが戦ったときにはかなり消耗してたかもしれません。その前からフェンリル二匹が戦っていたみたいですから」
「ふむ、そのフェンリルというのも気になりますね。どのような姿でしたか?」
「ええと……炎の方は全身が燃えるような毛皮に包まれていて、かみついたところやひっかいたところは焼け焦げたようなあとが残っていたかも」
「氷の方は真逆ですね。氷の毛皮に、氷のブレス、かみついたところや傷を負わせたところには凍傷のような痕があった気がします」
「あら、ミキ。あの熊の攻撃で瀕死だったわりにはよく見てたのね」
「瀕死だったからこそ周りをよく見ていたのかもしれません。隙を突いて逃げ出そうとか考えていたのかも」
「なるほどねぇ。私たちからできる情報提供はこんな感じよ……って難しい顔をしてどうしたのよ」
アヤネのいうとおり、ここにいる全員が苦虫を潰したよな顔をしている。
さて、なにかまずことがあっただろうか。
「とりあえず、『シックスアームズダークベア』だがドロップアイテムに魔宝石や魔玉石、毛皮のようなアイテムはあったか?」
「ちょっと待って……魔宝石って言うのは魔石のでっかいやつだろ? ああ、あのでっかい謎の石は魔玉石だったのか」
「……やはり魔玉石持ちか、ということはその熊は『黒死の凶手』シックスマーダーで間違いあるまい」
「ふーん、そういえばさっきこの熊を『モンスター』って呼んでた気がするけど」
「それは私から説明いたしますね。通常は魔物なんですが、一部その枠を超えて強力な存在が現れることがあります。それのことを『モンスター』と呼び、一般ハンターには近づかないよう注意を呼びかけております」
「……俺らの場合はセーフだよな」
「『炎爪』と『獄牙』もいたし大丈夫だろ。ハンターになる前の話だろうし」
俺たちへのおとがめはなさそうだ。
そうなると、残った素材の売却になるのだが……。
「頼む! 魔玉石は譲る! 魔宝石だけでも売ってくれ!」
「『凶手』が討たれた証明は必要ですからねぇ。できれば毛皮もほしいのですが……」
「いやよ。これ、とっても温かいんだから」
「……『凶手』も討たれればただの毛布ですか」
「他の素材はどうなんだ?」
他の素材といえば、凶手の肝がひとつ、凶手の爪が12本、凶手の熊の手が6個、凶手の肉がたくさんだった。
凶手の肉は帰り道でも何回か食べたが、独特の臭みがあるがいやな臭みではなく、大変おいしい肉である。
これについては譲りたくない。
「なるほど、こんだけか」
「凶手の肝は非常にありがたいですね。まず手に入らない逸品です。オークションにかけられるような代物ですよ」
「爪はどうするよ」
「それなんだけどな。装備の強化に使いたいんだ」
「わかった。それじゃ、買い取りなしでもいいぞ」
「あっさり引くな」
「正直なところ、魔宝石と肝だけでも十分な儲けが期待できるのですよ。ですので、他はおまけ……ですかね」
「おまけで悪いけど、熊の手ってどうしよう?」
「熊の手なぁ。珍味として取り扱う店はあるだろうが、どうなんだろうな?」
「一応、商業ギルドに声をかけてみましょう。フートさんたちの保管分はなくてもかまいませんか?」
「さすがに熊の手を料理するのはちょっと……」
「それでは、『凶手』の熊の手が最高鮮度で手に入ったと商業ギルドに使いを出してきます」
「応よ。さて、フートよ。武器強化っていうのを聞くのも野暮だが、そんな簡単にできるものなのか?」
「ああ、……スキルのことはもう話しても大丈夫なんだよな」
「問題ないぞ。スキルがらみかよ」
「最近できるようになったことなんだけど、【神器強化】っていうのが増えたんだ。それで手持ち素材に必要なのがあれば装備が強化されるって寸法さ」
「神器……ねぇ。見た目はそこまで神々しくないんだが」
「俺たちと一緒に成長するらしいからな。それで、アヤネの革鎧とミキのナックルに熊の爪が必要だったんだ」
「そういうことなら話がはええな。早速やってくれ。『凶手』素材なんて残しておいてもろくなことにならねぇ」
「そういうわけだから、二人ともよろしく」
「はいはい。……私の方は特に変わらないわね。少し頑丈になった気がするかしら」
「あ。私の方は大分変わりました! ナックルから爪が飛び出すようになってます! 自分でしまえるのでいろいろな使い方ができそうです!」
「ほーん、これが強化か。確かに、便利だわなぁ」
「……あと、この場に来て魔玉石の存在を知ってから追加になった項目があってな」
「なんだ?」
「【魔玉石装着】って機能だ。おそらく、対象の魔玉石を神器にはめ込んで効果を引き出すんだろうが……」
「よっし、フート。それも今のうちにやっておけ。ギルドマスター命令だ」
「それは理不尽じゃないかにゃ?」
「魔玉石を持っているなんてしれたら、バカな貴族どもがわんさか押し寄せてくる。すでに使用済みならその心配もないしな」
「なるほど。それなら使用一択だにゃ」
「そうなると誰の神器に使うかなんだが……」
「使った場合の効果はどうなるんだ?」
「アヤネの盾に使った場合は物理・魔法防御力上昇、アヤネとミキの武器に使った場合だと物理攻撃力上昇とスタミナ増幅、俺の杖に使った場合、魔法攻撃力上昇と魔法拡散可能だな」
「魔法拡散可能とは?」
「普段は一発しか発射できないような魔法でも数十発の弾丸にすることができる能力らしい。攻撃力は等分だから弱くなるんだけど」
「……フートの杖一択にゃ」
「そうね」
「ですね」
「だな」
「やっぱりそうなるか」
ということで俺の杖に『凶手の魔玉石』をはめ込んだ。
どこかで試し撃ちしないとな……。
「失礼します。商業ギルドへの手配完了いたしました。魔宝石も詳しい鑑定をかけてからオークションとなるでしょう」
「わかった。今日は他になにかないか?」
「ああ、天陀の街で物資運搬の依頼を受けているのである。そっちの処理をしたいのにゃ」
「わかった。ゲーテ、頼んだぞ」
「はい、お任せください。ようやく普通の依頼がでてほっとしました」
「普通の依頼……にゃあ」
「へ?」
ゲーテさんに案内されてたどり着いた倉庫で依頼の品を出すと、驚いた顔をされてしまった。
すべて魔物素材なのでカウントに時間がかかるということなので報酬は明日引き取りということに。
今晩はギルドが斡旋してくれる宿に無料で泊まることになった。
なお、ここでも寝る前のクリーンはしっかりかけることとなったけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます