第11話 あのね。なんでもないけど。 File 3
言われるままに香さんから水着を受け取り、私たち二人は試着室に入った。
ええッと、わぁ! 可愛い……だけど、これ本当に着るの?
興味は高鳴るけど、恥ずかしさの方が上回る。
意外と、水着って恥ずかしいもんだよね。なんか、わざとらしく隠しているような感じがしてさ。
”あれ”の時は裸なんだけど、確かに恥ずかしいよ。でもそれが当たり前って言うのがあるから、そうなっちゃうんだけど、その感覚とは違うんだなぁ。
「ねぇ、美愛ちゃん着れた?」
隣の試着室、香さんが声をかけて来た。
早! もしかして香さんもう着替えちゃったの?
「も、もうちょっと!」
「大丈夫よ慌てなくてもいいから」
「はい」って、あ、胸思ったよりきつい! ええ、こんなに締め付けられるのぉ!
「もう大丈夫かなぁ」
「あ、ハイ大丈夫です」
カーテンを開いた。目の前に香さんの姿があった。その姿を見て思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。
「どうぉ?」と自分の水着姿を見せる香さん。とても綺麗だ。それもってセクシー!! わぁ、大人の色気むんむんて言う感じがたまらないよぉ。
腰に巻いたパレオが大人感を引き出している。
「わぁ美愛ちゃんも可愛いい。やっぱり若いっていいわねぇ」
「えへへ、そうですかぁ。でもこの水着物凄く胸がきついんですけど!」
「うわぁ、思っていたよりあるんだね」
「なははは、お恥ずかしながら」
「ふぅ―ん」と言いながら香さんは人差し指で私の胸をツンツンと突いた。
「なははは、やわらかぁ―い。それじゃ、残りも行ってみよう!」
て、さぁ、自分の水着の事よりも私の方になんかノリノリになって来ているの気のせいかなぁ。
結局3着全部試着して、「うん、これだよこれ。この水着が一番美愛ちゃんに似合っていたよ」
「そ、そうですか……。で、香さんはどうでした?」
「私はこれっ!」と、私が選んで持ってきたものの中から気にいってくれたのがあったらしく……良かったぁ。何となく大役務めた感じでホッとした。
「それじゃこの2着買いで行きましょうね」
「えっでもそんな悪いですよ」
「いいの、私からのプレゼント」
「ホントにいいんですか?」
「いいから気にしないで、こういう時は素直になるのが一番なんだから」
「ハイ、ありがとうございます」
でもさぁ、返事をしてから気づいたんだけど、私この水着、着る機会なんてあるのかな?
多分ないかもしれないでも、とっても嬉しかった。
それは本当だ。
「雄太さん!」
待ちくたびれているかと思っていたけど、意外と雄太さんってこういう時、自分の時間としてなんか有効に使っているような気がする。
それはこの二人の間で、培われた物なんだろね。
「気に入ったのあったか?」
「うん、香さんに私の分まで買ってもらっちゃったよ」
ニンマリとした顔で言うと、スッと雄太さんの手が私の頭に伸びて
「それは良かったな」と、優しく撫でてくれた。
その手の感触がとても心地いい。
頭を撫でられるのは、気持ちがいいのだ。
こうして3人でいるのもいいもんだと感じてしまう。
「喉乾いちゃった。どこかで休んでいかない?」
「ああ、とにかく動くか」雄太さんは座っていたソファーから立ち上がり、香さんと共に前に進みだした。私はその後ろを追う様に付いていく。
二人の後ろ姿を見つめながら「やっぱりこの二人はお似合いだよ」そんな事を心の中でつぶやく自分がいた。
ちょっぴりヤキモチ妬いていたのは……。
内緒です。
今日はとてもいい一日だったよ。
少し落ち込んでいた気分が晴れたような気がした。
「ねぇ今晩の夕食何がいい?」
「ん? もう夕食の心配か」
「だってさ、主婦はいつも献立考えるの大変なんだよ。それに食べてくれる人の事も考えないとね。ねぇ、香さん」
「えっ! それを私に振るの?」
「えへへへ、そうだよ。香さんも、もう少し料理頑張らないといけないんじゃない。将来に向けてさ」
「将来ねぇ……。確かに」
「うんうん、だってさぁ、お料理のできないお母さんって『かっこ悪い』じゃない?」
「やっぱりそう思う?」
私と雄太さんは同時に頷いた。
「もう、何でこう言う事だと二人は息ピッタリなのぉ! まったく……。でも『かっこ悪い』のは嫌だなぁ」
「良かったら教えてあげるよ。簡単なものからね。あ、そうだ香さんはまずは包丁の持ち方から教えないといけないみたいだったなぁ。もしかして、包丁使うことあんまりないんじゃない?」
「ええっとね。実は……使った事ないんだ」
「やっぱりね」
「どうして分かったの、美愛ちゃん」
「だって、香さん今まで包丁に触れたとこ見たことないんだもん」
「あはははは」
苦笑いをする香さん。
そうだよ香さん。あなたと雄太さんの間に生まれてくる。将来のあの子のために。あなた達の愛娘ためにあなたの愛情を、めいいっぱい注ぎ込んであげてほしい。
多分あの子なんだと思うから……。
私に語り掛けてくるあの子。
あの子からお願いされているんだから、
二人の傍にいてくださって。
でもさ、もうそんなにいられないと思うんだよね。
こんな気持ちになる時、どうしてあなたは私に語り掛けてくれないんだろうね。
それって、意地悪だよ……。
愛美ちゃん? 何故その名が出て来たのかは分からないけど、何となく出て来た名前。
あなたは私にお願いした。……でも、それより前に私があなたにお願いしたことだったのかもしれない。
薄れゆく記憶。
そして蘇りつつある記憶。
この記憶が私を支配した時……その時、私はいなくなるんだろう。
私が望む二人の未来が歩み始めた時。
その時が本当のさようならなんだと思うから。
ねぇ、雄太さん。
あなたには幸せになってもらいたい。
ただそれだけなんだよ。
私の願いは……。
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