第33話 美愛ニヤァ― ACT 8
「さてやりますか。美愛のお仕事」
「う、うん」
ローテブルの上には、知らぬ間に食べきった二人分のバーガーセットの殻が置かれている。それを片付けようと集めると「あ、それ、私片付けるよ」と麻衣が飲み切ったはずのドリンクカップを二つ手にした。
それを持ちながら立とうとしたのがいけなかったんだろう。空であろうドリンクカップを胸に抱きかかえるようにして、麻衣が立ち上がろうとした時、思わずよろめいた。足がしびれていたことを忘れていたというか、感じていなかったのか。「あれぇ!」と声を出して私の方に寄り掛かった。
ぐちゃ! とカップの中の液体が二人のブラウスに飛びかかった。
制服のブレザーはお互い脱いでいたからよかったが、ブラウスとスカートはびしょ濡れになった。
「ごめぇ―ン」溶けた氷がカップの中にまだ残っていたようだ。
「ああ、汚しちゃったね」
「ええッと、そうみたい」
「とりあえず何か拭くものない?」
「タオル今持ってくる」脱衣所から急いでタオルを持ってきた。
「ああ、ブラまで滲みちゃった」そう言いながらブラウスのボタンを外し始めた。
「美愛も早く脱がないと染みになっちゃうよ。洗濯しないと」
「う、うん。そうだね」言われるまま、私もブラウスを脱ぎ始めた。
「スカートも濡れちゃったね」
「うん、一緒に洗濯しちゃってもいい?」
「構わないけどホントごめんねぇ」
「いいの、どうせ洗濯しないといけなかったでしょ」
「まぁね、出来ればそうなんだけど。ん――、どうせならついでだぁ。全部洗濯してもらっちゃおっかなぁ」
「全部って?」
麻衣の方を見るとすでにブラを外して、スカートをすとんと床に落とし、パンティに手がかかっていた。
「ええ、全部脱いじゃうの」
「そうだけどダメ?」と言う前にすでに麻衣はパンティをおろしていた。
目の前にはひざ丈の黒のストッキングだけを履いた裸体が目に映っていた。
私は思わず麻衣のその躰に釘付けになった。
綺麗な躰。
同性の私が見ていて思わず見とれてしまいそうなくらい綺麗な躰が目の前にあった。
「どうしたの美愛?」そんな私の眼差しを麻衣は何かを問いかけるように言う。
「麻衣の躰綺麗だなって」
「そうぉ? 普通だよ……ううん、全然綺麗なんかじゃないよ」
「そうかなぁ、なんか同い年の体つきじゃないみたい。なんか雰囲気が違うっていうかさぁ。なんか物凄くエロイんだけど」
「ええええッと、美愛。もしかしてあんたそっちの世界も経験済みなの? 私はまだないんだけど……さ、さすが女子高の裏世界も知っているなんて」
「えっ! あ、ッと、ま、まさかぁそんなのないよ」
とは言ったけど、実際お嬢様学校で名高いけど、あるんだよねぇ。噂はよく耳にするよ。それにマジで付き合っている雰囲気ありありの子たちも結構いたりするのは事実。
でも何となく分かる。こんな気持ちになるんだぁ。
胸のドキドキが止まらない。
ああ、多分私の躰が求めているんだ。……でも、そんなことをしている余裕はない。時間は刻一刻と雄太さんの帰宅時間に向かっている。多分今日は何も連絡が来ていないからそんなに遅くなることはないだろう。こんな気持ちに浸っている余裕なんかない。
「シャワー浴びちゃう?」
「いいの?」
「うん、いいよ。そうしなよ。下着は私の貸してやるし、着るのスエットしかないけどいい?」
「もう、十分だよ。ありがとう」
麻衣はシャワーを浴び始めた。私は汚れた服を洗濯機に入れスイッチを入れた。出来れば下着と服とは別に選択した方がいいんだろうけど、そんなことをしていたら結構な時間がかかてしまう。ここは致し方ないだろう。下着はネットに入れ一応分けてはあるんだけど。
浴室のスモークガラスに映る麻衣の躰。まだ私は気にしている。
自分も数少ない普段着? うん、これは普段着だ。……部屋にいる時はこの姿が今は定番だ。ジーンズに雄太さんのワイシャツ。会社に着ていくワイシャツじゃなくて、もう着なくなったお古ををもらっている。
ささっと着替えてキッチンに向かった。
あ、そうだ。麻衣が今日泊まること、雄太さんに連絡しておいた方がいいよね。
キッチンにいる時は必ず傍にスマホを置いておく。何時雄太さんから連絡が来てもいいように。
「あのね、雄太さん。今日偶然中学の時の同級生と出会って、その子私の所に今晩泊めたいんだけど、いいかな?」
既読がなかなかつかない。ん――――とスマホの画面を睨んでいると、ようやく既読が付いた。
「おい山岡まだ書類上がらいのか」
「すんません。あと少しで終わります」やる気のないというかもう帰りたくて仕方のない山岡の返事を耳にして、ふとスマホを見ると何やらメッセージ通知が来ていた。
開いてみると美愛からだった。美愛からこうしてメッセージが来るのは珍しい。いや、初めての事じゃないか。何かあったのか?
「ん、中学の時の同級生って? 泊まっていくって?」
ん――、ん――、。大丈夫なのか? あらぬ噂が広まりそうな予感がふとよぎった。
「大丈夫なのか? 変な噂を広めてくれそうなことはしない子だったらいいんだけど」
と、返信して訊いてみたがその後、俺自身も香を連れ込んだんだった。むげに帰せとは言えないな。ま、俺が今日帰らなければいいのかもしれない事だ。
「今日俺ホテル泊まるわ。やっぱまずいだろ。何とかいいように泊まっていく子に言っておいてくれ」
それはルームシェアで同居しているのが男であることを隠せという意味だったのだが。
「あ、それは大丈夫だと思う。ある程度の事は話しちゃったし、言いふらすような子じゃないから……ちなみに男じゃないからね。
おいおい、誰が男だと思っていたんだよ。……でも、なきにもあらずか。まぁ女の子だったらまぁいいか。それに話しちゃったんだったら仕方がねぇよな。噂が広まらねぇことを祈るばかりだ。
「ま、それならいいんじゃねぇか」
「ありがとう。ところで何時くらいになりそう?」
何時に上がれるかって? それは俺の目の前で頭抱えている奴に訊いてほしい。
「多分、8時くらいには帰れるんじゃねぇのか……いや帰りたんだけど」
「分かったそれじゃそれに合わせて夕飯作っておくね」
「ああ、頼んだ」
しかし美愛の中学の同級生? 友達って言う事だよな。なんだちゃんとそう言うのいるじゃねぇのか。美愛の奴。
ちょっとホッとした瞬間。なぜか背中がびくびくと動いた。
何か不吉な予感がした。……本当に大丈夫なんだろうか?
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