第30話 美愛ニヤァ― ACT  5

「あ、ちょっと待ってて」そう言うと、麻衣が全国どこでもあるハンバーガーショップにスッと入って行く。

私は制服姿に両手に買い物袋を携え、店の前で待っていた。


ふと気がつく人々の何となくの視線。

なんだろう?

 

そんなに私は目立つんだろうか。この制服姿にぱんぱんに詰め込んだ買い物袋。

「なははは、なんか視線が痛いなぁ」


今まで気がつかなかったけど、結構この姿は目立つんだろうな。

それもこの制服のせいかもしれない。ライトブラウンのジャケットに割と目立つサイズの赤のリボン(3年生のリボンは赤色)。一応校則通り……風紀委員からは一度注意されたけど、スカートの丈はさほど短くはしていない。ただ、このスカートも赤と茶色の格子柄。意外とスカートの方が目立つのがなんとも気になる。


それを思えば、この2ヶ月間この姿でよく街をさ迷っていたものだ。今になって自分のその姿がいかに目立つ姿だったのかという事に気がついた。

そう言えば、雄太さんと初めて出会った時彼はこんなこと言っていた「制服姿で大丈夫?」って。


かなり目立っていたんだろうね。

あははは、あの頃はなんとも思っていなかったけど、マジやばかったのかもしれない。知っている人は分かるんだろうね。この制服が白百合の制服だって言う事。


そんなことをポケッとしながら思っていると、麻衣が店から出て来た。

麻衣の制服は私のとは全く正反対の様に感じる。と言うよりも、これが普通の高校の女子制服だという感じ。紺のブレザーに青の棒帯。そしてブレザーと同じ色合いのスカート。


こう言っては失礼なのかもしれないけど、どこでも、ま、いわば無難な女子高生と言った感じがする。

白百合の制服は派手なのだ。お嬢様学校というからにはもっと質素でもいいのに……。いっそうの事シスター姿が制服姿なんて言うのは……あははは、何考えているんだろ私。麻衣から言われた「男でしょ」に反応しているのかもしれない。


「あのう美愛さん。美愛さん。何、にヘラとした締まりのない顔してるんですか?」


「えっ! 私そんな顔してた?」

「うんうん、この姿であの顔はちょい不気味」

「マジ!」

「うんマジ。そうだ、ほれ、バーガーセット買って来たけど、両手にそれじゃぁドリンクも飲めないね。どこか座れるるところ探すかぁ」


「それならちょっと行ったところに公園があるけど」

「ああ、知ってる。あそこかぁ……」

「何かあるの?」

「あ、いいや、別にぃ」何かを思い出したように呟く麻衣。

でもあの公園の事知っていたんだ。確か麻衣の家って叔父さんのところの隣町だった気がするけど。こんなとこにまでよく来るんだ。


「ねぇ美愛、公園よりもさ、あんたの今住んでいるところに行っちゃ駄目?」

「ええええ! わ、私の住んでいるところ!!」

「うんうん、なんかさぁあの公園もしかしたら私相性悪いのかもしれないし」そう言いながら、はぁ―とため息をつきながら「すっぽかされた所だしねぇ」

「すっぽかされたって?」

麻衣は慌てて「な、なんでもないよ。独り言」とは言っていたけど、なんか隠してる雰囲気ありあり。


「それにさ、さっき買ったもの生物せいぶつじゃないよなまものばかりじゃん。早く冷蔵庫入れた方がいいと思うんだけどなぁ」

――――言われてみればその通り。出来れば早く冷蔵庫に買った物を入れたい。

「……う、うん。そうなんだけど」


「それともなんかマズイ?」

「あ、そんなんじゃないんだけど……」


どうする―――――!! 早く帰らないといけないのは分かっているけど、麻衣をあそこに連れて行ってもいいんだろうか? 雄太さんの許可なしに……。許可かぁ、別に許可取らなくても。許可取るって私監禁されたいる訳でもないし――――ま、いいかぁ。まだ雄太さんは会社だし、ちょっとくらいなら。


「そ、それじゃ」

「うんうん。お、美愛の愛の巣へ」

「ば、馬鹿。愛の巣とかそう言うのじゃないって」

「そう慌てなくたって、だってさぁ『男でしょ』て言っても美愛否定しなかったんだもん」

「そ、それは……」

顔が一気に熱くなちゃった。

「はら、顔赤いよ」

「ん、もう麻衣の意地悪ぅ!!」


結局私は麻衣をこの家に連れてきてしまった。

「へぇ、すんごくいいところじゃない。いいなぁ。私もこんなところに住んでみたいなぁ」

「ええええッと、でもさぁ、麻衣はちゃんと家があるじゃない」

「まぁね、あることはるんだけど……。うちさぁ、親離婚しちゃったんだぁ。今は母親と二人暮らしなんだけどね」


「……そうなんだ」

「でもそれを言ったらさぁ、美愛はどうして今ここに住んでるの? 立派なお屋敷だったんじゃない。……確か」

「う、うん。2年前に……両親、事故で死んじゃった」


「嘘! ご、めん」

「ううん、もういいんだぁ。両親が死んじゃって叔父さんの所に引き取られたんだけど、色々あってね。もう私には何もないんだぁ。あの家も……家族も。そして私自身も……」


麻衣は私の体を強く抱いた。そして、耳元で小さな声で

「自分も無くした……なんて言っちゃだめだよ。美愛はちゃんとここにいるんだから」

目が熱くなって来た。自然と、涙が頬を伝わっていた。


「私もさぁ、自分を捨てたんだぁ。でもさぁ、私は私なんだって言う事何となく諦められなくて、ううん、諦めたくないんだよ」

ドクンドクンと麻衣の鼓動が私の胸に伝わって来る。


麻衣も自分を捨てたと言った。私も同じ……あの2ヶ月間の間私は自分を捨てていた。でも、雄太さんに出会ってから私は、知らず知らずのうちに自分というものを取り戻そうとしていたことに今、気がついた。



私は捨てた自分を、取り戻そうともがいていることに……。

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