第20話 同棲じゃない。あくまでもルームシェアだ! ACT 3

「まずはちゃんと学校に行くこと」

「ええ、学校に行くの!!」

「そうだ! これがまずは第一条件だ」


「ねぇ、どうしても学校に行かないといけないの? なんだかもうめんどくさくなってきたんだけど」

「だからだ。基本その制服着てるんだからお前はまだ高校生なんだ。高校生は学校に行くもんだろ」


「ううううううううううっ」


「それと次、ここに住むって言う事は俺とお前の関係は同棲とかそいう関係じゃない。まして恋人同士と言う関係でもない。単なる同居人。そうこの部屋をシェアしてるだけの関係だ」

「シェアって、ルームシェアするって言う事?」

「そうだ。部屋はまだある。そこにお前が住むという事だ。家主は俺だ。だから部屋代も俺に支払う義務がある」


「ちょっと待ってよ。私お金なんかないよ。それに働いてないんだもん入ってくるお金なんかないし」

「だったら働いてもらう。なんでもするって言っていたよな」

「そう言う所はしっかり覚えているんだ。……いいよなんでもするよ。あ、でも痛いのはちょっと遠慮ね」


「痛いの? あ、そうじゃねぇって。出来る限りでいい、学校が最優先で。この家の家事をやってくれ。掃除に洗濯、料理は出来そうだよな」

「ま、出来るけど……。そんなのでいいの? あ、そうかそれに”あれ”が付くわけだ」

「付かねぇ」

「へぇー、そうなんだ」

ちょっと上目遣いに美愛は俺を見つめる。


「我慢出来るのぉ? 別にいいよ、我慢しなくたって。今回は未遂だったけど、お互い肌は触れ合わせちゃっているんだよねぇ。カッコつけなくたっていいんだよ。そこまで援助してもらえるんだったら、私的にはいいよ」


「いや駄目だ。だから言っただろ。俺とお前はルームメイトだ。それ以外の関係はない……基本的には」

最後に「基本的には」と付け食われたのは保険だ。今、こんな事を言っているが、正直なところ耐えられるのか? と思えば自信はない。だけど、美愛には俺はもう手を出しちゃいけねぇんだ。


多分それが俺の傍に居てくれる、俺への条件だからだ。


「分かった。私も誘わない。でも本当にそれだけでいいの。なんか申し訳なく感じるんだけど」

「いいんだ。傍に誰かが居てくれる。それだけで俺はいいんだ」

そうだ俺はお前が傍に居てくれるだけでいいんだから。


「あとの細かいところは追々決めていくとして。……最後に一つだけ、これだけは最大条件だ。一回、叔父さんの所に帰って、無事な姿を見せてこい。行くのがどうしても嫌だったら。電話連絡でもいい。とにかくお前が無事であることを伝えろ」


「……嫌だよ。もう、私あの人たちには関わりたくないんだよ。それに連絡をすればきっと今いるところ、ここのこと、雄太さんに迷惑かけちゃうかもしれない」


「かもしれないな。こんな話すぐに吹っ飛んじまうかもしれない。でもそこまで帰りたくないんだったら、その気持ちをはっきりと叔父さん達に伝えるべきだと思う。自由になりたいと言うのは分かる。でもその自由って言うのには大きな責任が自分自身にのしかかるって言う事も覚えておけ。そして、叔父さんたちに向き合う事が、お前の求める自由と言う責任の一歩なんだから」


美愛はがっくりと俯き

「分かったよ。うん、逃げてた。私逃げてたんだよ本当は。そうだよ、自由になりたかったし、私はあそこに居ちゃいけないんだって、私がいることで叔父さんたちが迷惑しているんだって解かったから……だから帰らなかったんだ。学校が終わってそのまま帰らなかったんだ。私が帰る場所じゃないって思えちゃったんだよね。あの時自由が欲しいと言うよりも、本当は帰る場所が欲しかったんだよきっと」


「帰る場所ならもう出来たんじゃねぇのか」

美愛はその言葉に反応するように顔を上げ、目に溜めた涙を頬に流した。

「うん。そうだよね」とにっこりとほほ笑む。

その顔には一つの覚悟と共に、ようやく何かをつかめたような想いが感じれれるかに見えた。


ここまで話を進めて、もう後戻りはできない。俺に対するリスクは大きい。もしかしたら、美愛が叔父さんたちに会う事で俺は何かしらの罰が与えられるのかもしれない。その脅威はある。

そうなれば……。だからと言って何か講じる策がある訳でもない。ただこの身をこの流れに任すだけしか今の俺には思いつかなかった。


結局この2週間、美愛の叔父さんたちからは何も連絡はなかった。


美愛が叔父さんの家に行き、帰ってきたときに俺に告げた言葉はただ「行って来た」とだけ言った。多分嘘はついていないだろう。その表情はとても悲しい表情だったから。


「学校はさ、手続きしてくれるってさ。一応家庭の事情で休学扱いになっているみたいなんだ」

「そうか。良かったな」

「それとさ、落ち着いたら連絡だけもいいからしろだって」

「うん、あとはお前に任せるよ」

「……うん」


目を真っ赤にはらして、帰りに泣いてきたのがバレバレだ。それでも明るくふるまおうとしている美愛に俺は何も言う事は出来なかった。


「あのさ……」

「んっ、何だ」

美愛は俺の前にきちんと正座をして「これからよろしくお願いいたします」と、頭を下げた。


「あのなぁ、嫁に来た訳でもねぇんだから、そんなに仰々しくしなくたって」

「嫁? あああ、そうだね。嫁、結婚かぁ。そうだねそうだね」とかなり照れていた。


「でもさ、結婚ていうのもありかも……ね」

ば、馬鹿か。いきなりなんてこと言うんだ。



「あ、ありえねぇ」

「なぁんだ。面白くないのぉ!」


その少し不貞腐れたような顔が、愛おしくも見えた。

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