第10話 交わりは一直線 ACT 5

「マジ?」体は最近正直と言うか私の気持ちとは裏腹にこの環境に順応して来ちゃっているんだろうか。


「欲しいのかなぁ」

でもさぁ、私喧々そんなにないん……。回数だって確かに、いや関わった人はそんなに多くないよね。


初めての時は本当に嫌だったけど、仕方がないと言う気持ちの方が先行していたから、何とか乗り越えられたけど。だんだん一つの屋根の下にはいずらくなるんだよね。


だから出て行く。


そして次の屋根を求めさ迷う。

野良猫なんだよね。もうそんな生活を始めて2か月にもなる。


でも今回は本当にラッキーだったなぁ。

この人になぜか拾われちゃった。


多分他の人。私は間違いの人だったと思うけど、それでもこの出会いを逃すことは今晩私は、あの公園のベンチで一夜を過ごさないといけないという事を意味していたんだから。


何とかありつけたご飯と、この快適な睡眠の居場所。

……。でもそれも今晩だけ。明日からはどうしよっかなぁ。


私は世間で言う家出少女ではない。と、自分に言い聞かせている。


その証拠に2か月もあの家を出ているのに捜索願いも出ていないようだ。

この前居座った人の所にあるパソコンで調べてみたら、私の名はなかった。


そうだとは思っていたけど、やっぱりね。と、いう気持ちの方が勝っていた。

おじさんもおばさんも表向きは悪い人じゃない。

私の事に対しては表向きなんでもやってくれているように、そう見えるように仕向けていた。


でも実際はさぁ、仕方なく私と関わっていただけなんだよね。

あの日偶然訊いてしまった二人の会話。気が付いていたというか実感はしていたんだけど、あそこまでとは私も思ってはいなかった。


自分たちは私の両親がいなくなったことで、欲しかったものが手に入れられて満足だったのかもしれないけど。残された私の存在は邪魔者でしかなかったんだと。


ま、今さらそんなこと考えてももうどうしようもない。あの家にはもういられないというのを私は瞬時にさとった。


だから出てきちゃった。


でもさ、住むところが無いって言うのはこれほど大変なことだという事は知らなかった。

無計画にただ飛び出してきちゃったから、何もないんだよねぇ。


あるのは数枚の下着とこの制服。それとこの前いたところの人がお小遣いだって、1万円くれたけど……”した”後にさ。それも、もうあと3千円くらいしかないし。ほんと助かったよ。


「うううううっ」

「ん?」

この人何かうなされてんの?


う――ん、なんか体が熱いような気がするのはこの人からなの?

私の体が火照っている訳じゃ……。

と、彼をじっと見つめると、なんか様子がおかしい。


「あれぇ。具合悪そうに見えるのはなぜかなぁ。……いやいや、これはマジに具合悪いんだ。ええっ! どうしよう」


そっと彼の額に手を添えてみた。

「うわぁ! すごい熱だよ!」


まじまじと彼を見つめ、「ああ、そう言えば裸だったんだこの人」


ベッドの下に脱ぎ捨てたスエットが落ちていた。そのスエットをまずは着させようと手に取ったけど。ちょっと待って……。

パンツくらいは履かせないとまずいでしょ。


はて、でもパンツはどこに?


ふと納戸の扉が見に付いた。

「大体さぁこいうところに下着って入っていそうなんだよね」


納戸の扉を開け、その中に組み込まれている箪笥を上から開けてみた。

「おお!ドンピシャ。あるじゃんパンツ」


適当に押し込んである感満載の箪笥の中から「ん――どれにしよっかなぁ」

選んでる場合じゃないんだけど……。

ブリーフとトランクスが入りまみれている。お、こんなの見っけちゃった。

真っ赤なビキニパンツ。

「へぇ―、こんなのも履くんだ。えへへなんか変な気分んになっちゃうよ」


おっとそうだ、そうだまぁここはゆったりめのトランクスでいいかぁ。

よいしょッと。意外と重いんだ。足からパンツを通し、腰の所まで引っ張ってあげたけど、お尻を浮かばせないといけない。これがまた重い。男の人の体ってどこも重いんだね。


何とかパンツ履かせて次にスエットのズボンを履かせる。これまた同じ様にあの重いお尻を浮かせて何とかはせることが出来た。


上は頭から袖を腕に通し、ずりずりと引っ張って何とか着せることが出来た。

こんなに体を動かしてるのに彼は一向に気が付く気配はない。


「んーこれは本当にやばいかもしれないよ。とにかく冷やそう……。お薬なんて……ないよねぇ」


知らない人の家の中をあれこれかき回すのはかなり気が引ける。


お薬探すよりも氷で、頭冷やした方がまだいいような気がする。キッチンに行って冷凍庫を開け、氷があるのを確認してから。浴室から洗面器を取ってきて、氷を洗面器に入れて、タオルを濡らして……。


タオルじゃないけど、キッチンにあったのだからこれは布巾だけど、この際贅沢? は言っていられないよね。


彼の額に冷たく冷やしたタオル。いや布巾をのせて

「少しは楽になるかなぁ」苦しそうな彼の顔をじっと見つめる私。



これでこの人死んじゃったら私重要参考人? それは避けたいなぁ。


なんて思う、今の時間は午前3時を過ぎていた。

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