失恋マスター折上くん
咲井ひろ
プロローグ、といっても失恋話しかねえんだなこれが
この物語をあなたが読んでいる時、俺はもう失恋していると思う。
失恋して傷心して、クリスマスとか家で寝てると思う。
一体どうしてこうなってしまったのか、いつからこうなってしまったのかは分からない。今更原因を探る気にもなれないし、そんな事はどうでも良かった。
筆を取ったのは、ただ一言、俺は確かにカノジョが欲しかったんだと、言いたかっただけなんだ。
そしてこれを読んでいる誰かへ。
俺の失恋、その一部始終を書き留めておくので、良ければ笑って欲しい。馬鹿だなと貶して欲しい。そして俺のようにならないよう、
好きな人には好きだって、伝えて欲しい。
さて、まだ小学生の、恋も愛もその違いも分からなかったあの頃、俺は一人の女の子に恋をした。今となっては名前も顔も仕草も、何故好意を抱いていたのかすら朧げだが、確かに俺はあの子が好きだったのだ。
『折上くん、実はわたし、■■■くんのことが、好きなの』
そんなあの子にある日告げられたのは、俺ではない別の男子への好意。
相手の名前もその子の名前も思い出せないが、しかし衝撃的で、打ち明けられた瞬間の空の色や、校庭の香りだけは妙に鮮明に記憶している。
俺は少しでも、カッコいいと思われたくて咄嗟に、
『うん! きっと■■■ちゃんなら、アイツも好きになってくれるよ!!』
と、そんな事を口走ったと思われる。
『ぜったい?』
『ぜったい!!』
その後二人がどうなったのかは知らないし興味も無いけど、
こうして、俺の初恋は終わりを告げた。
時は進み中学に入学した頃。俺はまた、一人の少女に恋をする。多分、理由は可愛かったからとかそんな感じだったと思う。普通に話しかけて、放課後は遊びに出掛けたりしたけどさ、
『■■■ちゃんってさ、アイツの事、好きなんだろ?』
成長し、人の表情や機微を敏感に感じ取れるようになった俺は、その子の視線がいつも、俺ではない人間に向いているのだと気が付いていた。
『え、な、なん、で』
『分かるさ。君ならきっと、アイツも好きになってくれるだろ。そうだ! 今度の週末、3人で出掛ける予定を立てよう。当日、俺は風邪で欠席にするから』
『そんな……いいの?』
はい、二度目の恋は終了。
中学2年生に進級した。
またまた別の女の子を好きになって、しかも今度は中々に良い感じだったけれども、どうやら彼女の幼馴染、その両親が海外転勤となり、いざ離れるとなって、だからその子は自分の本当の気持ちとやらに気が付いたらしく、
『私……やっぱり、離れるなんて嫌だよっ……ねえ、どうしたらいいの……』
とか言っていたと思う。
『行けよ』
『え?』
『行け!! お前、アイツの事好きなんだろ!? 今ならまだ間に合うって!!』
そうして彼女は大きく頷くと、駅に向かって行った。
『あ、でもちょっと待って!! もしやっぱりってなったら全然戻って来ても良いから!! 俺全然待つし!!』
『さようなら、折上君!! ありがとう!!』
中学3年生進級時。
『折上君、ごめん。私やっぱり』
『とりあえず行け!! もう行って!?』
中学生、修学旅行。
『折上君』
『よく分からんが行け!!』
卒業式。
『折』
『GO!!』
と、こんな経験が数え切れない程。例えて言うなら少女漫画でよくある2番手の男、ヒロインに恋する報われないサブキャラ。エンディングで余り物同士でくっつけられたりするアレ。いや、俺にはそれも無いんだけども。
しかし、最早細かく記憶するのも面倒だが、どうにも失恋の思い出というヤツは厄介で、相手の顔も名前も仕草も、何故好意を抱いていたかさえ朧げなくせに、失ったという事実だけはガッツリ残ってくれている。
あー、もう。
自殺したい。
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