9
夜遅く、日付も変わろうという頃に俺は千鳥足で自宅へと戻ってきた。
あの後繁華街へと出た俺はガラの悪い連中に絡まれて、腹いせにそいつらの口座が空っぽになるまで引っこ抜いてやったのだ。どんな悪さをしてるのか知らないがガキのくせにまあまあ貯めこんでいて三人で二百五十万ほどにもなった。
あっという間に目標額の倍を手に入れた俺はちょっと拍子抜けしてしまい暫く街をブラついたあと、なんとなく目に付いた少し値の張りそうな飲み屋でしこたま呑んで今に至る。
最初のうちは普段口にしない洒落た料理に舌鼓を打っていたんだが、名前しか知らないような酒聞いたこともない料理をあれもこれもと注文しているうちになんだかわからなくなっていた。どこの店でどうやって金を払ったんだっけ。あのあと他の店にも行ったような気がするし、確か電車に乗って帰ってきたような気もする。
まあそんなことはどうだっていい。
玄関を開けてただいまも言わず靴を脱ぎ散らかして奥へ入ると、相変わらずあの女がベッドの上にいた。俺の布団を丸めてクッション代わりにもたれ寝そべってテレビをつけて眺めている。
「おおタカシ、やっと戻ったか」
彼女はテレビから俺に視線を移してやや気だるげに微笑んだ。
「えらく急に金が入ったゆえ飛んで戻って来るのかと待っておったのだがのう。なんじゃ、呑み歩いておったのか」
俺は答えずふらふらと女の元へ歩み寄る。そうだ、俺は別に酒が吞みたかったわけじゃない。あれは急にまとまった金が入ったからちょっと贅沢に使ってみたかっただけでなんの意味があったわけでもない。
赤い薄絹に包まれた白い果実に視線が、足が、体が、吸い寄せられる。俺はこれを堪能したかったんだ。
鷲掴みにしようと手を伸ばして重心を崩し、足がもつれて倒れ込む。
駄目だ、床が、天井が回っている。
くそ、気持ちが悪い。あんなに呑むんじゃなかった。
これからが本番ってときに…。
どれだけ意識を失っていたんだろう。意識を取り戻すと顔がひんやりとした柔らかなものに包まれていることに気付いた。なにかの上に、これは、もしかしてひとの上に倒れているのか?焦って顔を上げると間近に深紅の瞳があった。
「ようやっと起きたか。くはは、ろくに吞めもせんのに随分と深酒をしてきおったのう」
どうやら俺は帰ってきてすぐにこの女の上に倒れ込んでそのまま意識を失っていたらしい。慌てて飛び起きると数歩距離を取る。二日酔いは必至だと思っていたが不思議なことにむしろ普段より気分がいい。
「す、すまん」
とにかく一言謝った。女はクスりと笑う。
「気にせずともよい。気分のほうはもうすっかり良いのではないか?アルコールを抜いておいてやったでのう」
「は?」
なんか今凄いことを言わなかったか?
「貴様の血中に流れておったアルコールを抜いておいてやった、と申したのじゃが」
「いやいやどうやって」
「どうもこうもアルコールを捕捉して汗腺から引きずり出すだけであろう。ひとの身なれば貴様にはままならずともわしにとっては造作もない。神ゆえな」
「お、おう」
にわかには信じがたいが、正直あんなに酔ったのはクソ会社に入社したときの歓迎会で無理やり飲まされて以来ってレベルだった。まる一日寝込んでいたという話でもない限り、目覚めて二日酔いになってないなんて普通なら考えられない。
「貴様が風呂や便所でのたうち回っておるぶんには見物することはあってもそこまで手間をかけはせんのじゃが、わしの上でげろげろやられてはたまらんからのう。くはは」
「そいつはご親切にどうも」
つまり運が良かったってわけか。
「そんなことよりもタカシよ、二百万口座に入っておったのう」
両腕で胸を挟み、寄せて上げる。これまでも十分な威圧感を携えていた双丘が更に迫力を増して存在感を主張し始めた。
「これを好きにしたいのであろう。そのために外へ出かけて苦労してきたのであろう?特別に寝ておった間は数えずにおいてやろうではないか。さあ存分に堪能するがよい」
女がまるで別人のように艶然と微笑んだ。
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