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 ひとの金で食う焼肉は旨いってよく聞くがひとの金で食う寿司も旨いな。奢って貰ったわけじゃないけど。

 パソコンを置いてある机でお高い寿司をじっくり咀嚼しながらちらりとベッドを見るが彼女は相変わらず面白そうに俺を眺めているだけで寿司には手をつけようとしない。


「食わないのか?旨いぞ」


 神に寿司を勧めるのってどうなんだろうな。

 彼女は軽く肩を竦めて首を横に振った。


「わしは食ったばかりゆえそれは貴様が食うがよい」


「俺だって二人前は要らねえよ。なんか食ってきたのか?」


 俺の問いに彼女はニタリと嗤った。


「いいや、のでな」


「お、おう」


 今ってなんか食ってたか?まあ要らないってんなら冷蔵庫に入れておいて晩飯にでもしよう。そんなことより気になっていることはいくらでもある。


「それよりルカちゃん」


「なんじゃその呼び名は」


「いや、口座がアリタルカだったしアンタ俺より若いだろ。それとも神様って呼ばないとダメなのか?」


 万が一ひとに聞かれるとあまりにもヤバいので神様ごっこに付き合うのはできれば御免こうむりたいんだが。まあでも言ってみただけでまた断られるだろうなと思っていたが、意外にも彼女、ルカちゃんは否定しなかった。


「いいや、貴様が呼びたいように呼ぶがよい。特に差し許す」


「そりゃどうも。それでルカちゃんはいつまでここにいるつもりなんだ?」


 できたら晩までには帰ってくれ。しかしその返事は無慈悲だった。


「当分の間じゃ」


「だからどんだけだよ!」


「当分の間とはつまり暫くの間、あるいは見通しがはっきりしない間はずっと、などの意味で使うこともあるのう」


「そういう辞書的な質問をしてるんじゃねえよ。だいたい若い女が俺みたいなひとり暮らしのおっさんの部屋に転がり込んでなんかあったらどうすんだよ」


「ふむ、なんかというのはさっきのようにわしの乳を揉んだりわしの足指で果てたりするようなことを言うておるのか?」


 ニヤニヤと嗤いながら言う彼女の顔とわざとらしい足先の動きにさっきのあれを思い出してしまいこっちの顔が赤くなる。

 改めて相手から口にされるとこいつが勝手にうちに入ってきたのを差し引いても警察沙汰になったら俺のほうがダメージでかそうだな。


「そ、そうだよ。あんただって困るだろ?」


「別に困らんが」


 困ってくれないと俺が困るだろうが!

 改めて彼女の姿を見る。赤い薄絹はただの布切れかと思っていたがよく見ると辛うじてドレスのていを保っていた。しかし、下もどうだか怪しいもんだが、上は明らかに下着をつけていない。

 布生地は肌を覆うにはあまりにも少なく、そして透き通りこそしないもののその下にある肢体の凹凸を隠すにはあまりにも薄い。ヌードデッサンモデルでももう少し慎ましい気がする。

 確かに俺はほとんど異性に触れたことがない。というか正直に言えばまだ女性経験がない。足コキ童貞ならさっき卒業してしまったがちょっとひとには言いにくいなこれ。

 なお残念だが魔法が使えるようになるというのは都市伝説だったことを付け加えておく。


 いやしかしまてよ。彼女が困らないというなら。ふとそんな考えが脳裏をよぎった。


 こんな意味のわからない状況にでもなってなければ恐らくこんな美女とは話をする機会すら一生ないに違いない。困らないというなら楽しませて貰っても、お世話になってもいいんじゃないのか。

 心臓が激しく脈打ち、シャワーと寿司でなんとか落ち着いていたモノがまた猛り始める。

 彼女はなにもわかっていないような、なにもかも見透かしているような、呼吸まで荒げ始めている俺を涼しげな顔で眺めている。

 言え、言ってしまえ。ヤらせてくれと。いや、断られたって構うものか。俺は散々警告してきたし繰り返し帰れと言ってきた。勝手にうちに上がり込んだのも俺の言葉に従わなかったのも彼女の決断だ。なにかあったって俺は悪くない。むしろこんなエロい恰好した美女を目の前にふたりきりでなにも起きないほうがおかしいんだ。


「だ、だったらおっぱい揉ませてくれよ」


 日和ってしまった。しかしさすがにいきなりヤらせてくれは童貞歴の長い俺にはハードルが高過ぎたのだ。


「日和ったのう」


 心底呆れた半笑いで溜息を吐かれてしまった。心が折れそうになるのをぐっと堪える。あのでかい胸を好きにしたい。もっと心行くまで堪能したい。俺の頭の中はもうそれでいっぱいだ。


「うるせーよ、困らないんならそれくらいはいいだろ?なあ」

 

 焦るように続ける俺の言葉に彼女は嗤った。蔑むように、いつくしむように。


「そうさのう、では百万円で十分間わしの乳を好きにさせてやろう」


 百万?突然の法外な金額の提示に一瞬頭の中が真っ白になり、しかしすぐに言葉の意味を飲み込んで今度は一気に血がのぼる。


「今更金取んのかよ!つーか百万てどこの高級ソープ嬢だってそんなボッタクリ価格設定しねえぞオイ!馬鹿にしてんのか!!」


 つい声を荒げてしまったが彼女はどこ吹く風で続ける。


「払わずともよい」


「払わなくていいって。ど、どういう意味だよ」


「貴様の口座残高が百万円を越えたことを確認できたらそれでよい。金は貴様のものじゃ」


 混乱する俺を、俺の手元にあるリモコンを指差す。


「それを使えば簡単であろう?むろん使わず自分で百万作っても構わんがのう」


「マジか…」


「わしは約束は違えぬ。悪い話ではあるまい?のう?」


 先ほど一瞬で二万円を作った、そのリモコンを持つ手に汗が滲んだ。

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