第251話 記者会見
「台本を見ながら答えて下さい。上手じゃなくて当たり前ですから、読むだけで大丈夫です」
「はい」
読むだけ、読むだけ。
真下さんが、これから闘いに向かうボクサーのセコンドみたいに見える。
ドキドキしてきた。
真下さんはドアに向かい、「行きますよ」と声をかけて振り向いた。一気に緊張する。おれは立ち上がった。
「うっわ、いっぱいいる!」
つい言ってしまい、真下さんに睨まれる。
黒っぽい服の人たちが山盛りになってこっちを見ていた。多い。
試合の時と違って、いきなりフラッシュを焚かれることはないのに、おれは圧倒されて、既に迷子だった。
真下さんに引っ張られて席に座る。テーブルの上には飲み物も置いてあったけど、おれを見ている人を見返すだけで精一杯、気が付かなかった。
たぶんバカみたいに口開けっぱなしだったんだろう、真下さんが「こっち向いて下さい」って言って、おれの顔見て笑った。
真下さん、笑うんだ。
案外可愛くて、いつも笑えばいいのにと思う。
それでなんとか視点が定まって、言われるままに台本となる紙をテーブルに出し、飲み物を一口飲んだ。
「では始めます。一番の方からどうぞ」
言われて立ち上がった記者さんは女性で、真ん中あたりで立ち上がった。
「なるほどニュースの藤井です。よろしくお願いします。女優の花野咲良さんとペアになったことを知ったとき、どう思いましたか? また、今はどう思っていますか?」
いちいち名乗るんだ。おれなんかただの中学生なのに、めっちゃ丁寧だ。
「よろしくお願いします。びっくりしました。今は友達です」
えっ、それだけ? みたいな表情。
そりゃそうだ。わざわざこんな場所設けてひとことだけとか、ないよな。
記者さんはハンドサインで、もうちょっと、とかアピールしてる。追加の質問は禁じられてるって言ってたな。
「ギリギリで来たので、最初ネームプレートを見て、同姓同名だと思っていました」
うんうんうんうん! とうなずかれて、もっとどうぞ、とハンドサイン。
「とてもしっかりしていて、さすが大人に混じって働いてるな、と思いました。尊敬できる友人です」
オッケーオッケー。
おれは全部の質問の答に、付け足しが必要であると覚悟した。
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