第250話 控え室

 意外と楽勝じゃん。なんだ、こないだファンクラブで答えたのよりまとも。

 ぜんぜん普通の質問ばっかりだし、答すぐ書ける。

 心配することなかったな。


 ────もちろん、そんな訳はなかった。


 迎えに来た真下さんと地下駐車場からエレベータに乗って、その部屋へ行くと二本田さんと母さんと朝湖が待ってた。


「こんばんは……来てくれたの?」

「うん、ファンクラブから一人って。ヘアメイクとかしようかなって」

「うわ、ありがと」

「ううん。記者会見って見たことないし、立候補したんだあ」


 シンプルな白い部屋で、丸いテーブルと椅子が何脚か、そして入ってきたドアの他に、もう一つドアがついていた。

 テーブルにはペットボトルの飲み物が何種類か用意されていて、みんな1本ずつもらって飲んだ。

 真下さんは母さんに最終確認をする。


「隣の部屋で取材に応じます。制限時間は30分。一人一問で話し合いはついています。側に私がついて、答える必要のない質問などは断ります。いきなりの撮影はしない約束で、最後の5分間が撮影タイムです。いいですか?」


 一つ一つにうなずいて、母さんはお願いします、と言った。

 おれはそれを横目で聞きながら、二本田さんに髪をいじられている。


 前も思ったけど、着る服や髪型をなんとかすると、人間って見た目が向上する。

 おれなんか冴えない男子中学生だけど、ファンクラブなんてモンで写真載せていられるのは、この魔法によるところが大きい。

 本当にアイドルとかになったら、メイクとかもやったりして本当に化けるんだろうな、とリアルに想像できるようになった。

 本体は何も変わっていないし、自分の努力とかまるでしていないけど、この差は凄いんだ。

 可能なら、みんな気合い入れてお洒落したらいいんじゃないかなって思う。

 まあ、自分だけの力でできるかっていうと、おれはぜんぜんなんだけど。


 着ている服も前に置いてったおしゃれなスーツだ。

 それを、二本田さんは何がいけないのか、衿を整えたりしてシュッとさせてくれる。

 こういうの、特殊技能だよな。

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