第248話 好きだったら

 おれが何も言えないでいると、咲良はサッと腕時計を見て、「帰るね」と言った。


 何もできなかった……

 友達が大変なときに、おれは無力だ。

 自分はいつも、これ以上ないくらい助けてもらってるのに、友達にはなんにもしない。

 こんなのずるいやつだろ。

 むしろ友達ですらないかもしれない。

 いざというときに頼れるやつになりたい。でも、どうすれば……


「滝夜がそんな顔することないよ。じゃあね、またね」


 笑った。

 ごめんな、咲良。

 こんなやつが相手で。


     +


 連絡するとすぐに陽太ママが車道まで拾いに来てくれた。

 助手席が空いてたけど、小猫に引っ張り込まれて、何故か後部座席の真ん中へ座る。


「なんじゃその顔は」

「ええ〜、このシチュで何もないの? つまんない」

「さすがじゃの、滝夜」


 褒められた。

 さすがはこっちの言うことだよ、なんで何も言ってないのに分かるの。


「どうすれば良かったの? 何言えばいいの、こんな時」

「咲良、おれも好きだ。あいつのことなんかほっとけよ」

「真面目に聞いてるんだけど」


 どうして茶化そうとするんだ。

 おれがダメージくらって無言でいると、陽太がボソッと言った。


「おまえが言葉探してたことなんか咲良分かってるよ」


 それはたぶんそう。

 だからこそ不甲斐ない。なんとかしたかったんだ。


「何か言えるとすればおまえも好きじゃった場合だけじゃ」

「仕方ないよ」

「好きじゃないと言えないの?」


 ちょっと意外に思って聞いたら、二人とも微妙な表情になった。なんだよ。

 そしてその答はもらえなかった。


 だから好きじゃないと言えないってことを、帰りの車中ずっと考えた。


 おれはただ、慰めたかっただけだ。

 咲良が辛そうだったから、何か言って楽になってもらおうとしたんだ。

 友達だから。

 友達って、そういうもんだろって思って。


 でもあの時、みんな出てったんだ。

 みんなだって友達なのに、おれ達を残してみんな帰った。

 友達案件じゃなかった?

 好きじゃないとってことは、そういうことだよね?


 さっき陽太が言ったセリフ、もしかして茶化してなかった?

 おれが咲良を好きだったら、確かに言っていそうなセリフだ。いや、あんなカッコいいセリフは言えないけど。


 でも。

 あんな咲良を一人にして帰るのが正解なんて、そんなのは寂し過ぎる。

 あの時誰かが側にいてあげなかったら? あんなに大勢いたのにひとりぼっちなんて、それはない。ないだろう。

 だとしたら、おれの行動は残念だったけど、間違いじゃなかった。


 おれが好きだったら良かったとか、そういう問題でもない。だって咲良にとっちゃ負担が二倍になる訳だし。

 そりゃ両思いだったら別なんだろうけど。

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