第247話 勇者
おれ達は彼を見送って、その衝撃をどうしていいか分からずにいた。
おれはくちびるをきゅっと結んだ咲良を見て、それから住吉さんを見た。
なんか、表現できない顔をしてた。
間違いなく軍曹のことを見てたけど、ぼうっとするような、夢でも見てるような掴みどころのない表情。
目の前で相方に告白された、その点じゃおれと同じ立場のはずの住吉都さん。
べつに恋愛じゃないんだけど、そういう風になるやつも多い中で、そうじゃないって思い知らされるって言うか……
でもその表情は、言葉にできる何の形でもないままに時間が止まってるみたいだった。
「……すっごい! 勇者じゃん! カッケー!」
シーンとした空気を突き破るみたいな声は、二本田りらさん。
それを聞いてやっと、ああ、そういう風にも言えるなって気付いた。
確かに凄い。
全員の前で告るなんて、おれなら絶対ムリだ。
「ヤバい、目撃しちゃった!」
「ちょっと見直した! エロロ軍曹とか言っててごめん」
「そう言えば今日大人しかったよね!」
「うん、ぜんぜん! ぜんぜん寄って来なかった!」
鬼ノ目さんとかゆめさんとかマコとか、女子がちょっと興奮状態で手がつけられない感じなんだけど、そうか、やめたのか、その作戦。
思えばちょうど前回の帰り道だった。あれから彼は考えて、たぶん直接会うのは研修のときしかないからと考えて、今日言ったんだ。
確かに勇者。
本当に勇者。
だってフラれるって思ってたのに言ったんだよ?
みんなの前だよ?
恥ずかしいとかより直接言う方を選んだんだよ?
たぶんおれにはできない。
絶対二人しかいないときだし、フラれるなら告っても仕方ないって思ってしまう。
「帰ります」
服部さんがクールに言って出てった。
それを合図にバイバイして、おれと咲良が残った。陽太がスマホを指差して出てく。分かった連絡するよ。
「大丈夫?」
さっきから、なんか辛そうだったから。
咲良は上目遣いにおれを見て、うん、とうつむいた。
ぜんぜん大丈夫そうには見えないけど、こういうときなんて言っていいかなんて、分からないよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます