第242話 ハラスメント

 午後はまた、クラスを代わって年少さんの担当に。

 りょうこ先生はおれ達が入っていくと、小さく頭を下げて挨拶した。

 3歳児は絵本読んでる子と寝てる子が半々くらい。コショコショ話し声がくすぐったい。

 確か、これからみんな起きて、トイレ行って、おやつ食べたりしたはず。


 だけど、りょうこ先生は何も言わない。

 入ってきたおれ達にも園児たちにもなにも言わないで、何か書いている。

 突っ立ってるだけで何したら良いのかわからなくて、視線を交わす。


「寝ている子を起こしても良いですか?」


 思い切って咲良が先生に聞いた。


「はい」


 シンプルな返事に、やっぱり戸惑いを感じるけど、とりあえずやることはできた。

 寝てる子ゾーンに近付くおれ達の背中に向かって、先生が言った。


「あ、カーテン開けて下さい」

「は~い」

「それから絵本片付けさせて」

「はい」


 その言い方っていうか、指示の仕方に、いつもと違う何かを感じる。

 おれ達、先生を怒らせたりしたかな。


「もう良いですか?」


 唐突に先生が誰かに聞いた。


『ご協力ありがとうございました』

「はぁ~、こういうの、心に来ます」

『すみませんでした。感謝します』


 うさ衛門先生とやり取りしてるけど……?


『これは吾輩がお願いして先生にしてもらった。変だなと思ったかな?』

「そりゃ思ったよ!」

「いつも優しい先生が冷たくて」

「怒ってるのかと思った」

「ごめんね~」


 なんだ、うさ衛門先生の仕掛けだったのか。良かった。


『仕事をするときは、たいていの場合一人ではない。自分以外の人と協力してやっていくのがほとんどだ。

 君たちのように同じ立場の者を同僚、先生の立場を上司、先生から見た君たちの立場を部下と考える。

 今日覚えて欲しいのは、仕事を続けるために必要なことの1つが、人間関係だということだ。

 仲良しである必要はないが、必要な連絡や指示が滞ったり、陰口悪口などを言われたり、無理なことを強要されたりするようなことが一度でもあったら、社内の窓口や上長、または社外の相談窓口に相談しよう。

 逆に言えば、そういうことはしてはいけない。

 相手がどれほど気に入らなくても、大嫌いでも、仕事上は別問題だ』

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