第232話 守られている

 陽太ママは無駄な話はしない人らしく、そこからは無言の車中だったけど、それならそれで、気兼ねなくおれも眠った。


 大通りの駐車場で一時停止して、おれたちは歩いて保育園に向かう。


「久しぶりじゃの」

「ほんとだ」


 あれからまだ、1ヶ月も経ってない。

 早朝だけあって人の少ない道にの先に、保育園の門が見えた。


「オハヨー」

「ハヨッス」


 後ろからぱらぱらと声がかかって、振り向くと住吉さん、佐藤くん。佐藤くん、めっちゃ久しぶりじゃね?


「おはよう! 真っ黒だね! 元気してた?」

「おう。滝夜は活躍してたじゃねえか、ファンクラブ見たぜ」

「あ……あれはおれ、関係ないから……」

「何恥ずかしがってんだよ、うらやましいぜ!」


 そう言っておれの首に腕回して体重かけてきた。


「アハハ!」

「キャアアアア……!」


 あ、これ誰だか分かるぞ。おれには分かる。


「撮影、悲鳴より撮影だよ、ナッツー」

「はいっ! ただいま!」


 ああ、これファンクラブのエサにされるのか。


「佐藤くん、これ、ファンクラブに載るかもしれない。ごめん」

「え~! ちょっとやべえな! 俺も人気出ちゃう?」

「イヤじゃないの?」

「なんでイヤなんだよ、有名人」

「イヤだよ! おれは平凡な中学生なんだよ……」


 注目なんてされたことない、モブキャラだったはずなんだよ。

 こんな時、どんな反応すればいいかも分かんない一般人なんだよ~!


「ええ~? 女からキャーキャー言われてえじゃん。正直に言って見ろよ、嬉しいだろ?」

「そういえば、おれキャーキャー言われてないわ」


 そういう情報というか、何十回も放送されたとかいう動画も見てないし、番組とかたぶんシャットアウトされてる。

 山入温泉では人と会ってないし、直接騒がれたりしなかった。


「おれ、完全に守られてる」

「すげーな、ウグイス」

「山田家の人たちもみんなだ。すごくない?」

「すげー」


 今気付いたんだ。ずっとずっと守られていることに。

 それは不思議な感動で、おれの心にいつまでも残った。

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