第217話 綺麗な身体

 そして足。

 結構な時間を掛けて完成したマーキングは、なんだか謎の入れ墨みたいでカッコイイ。ただ筋肉に沿って線書いてるだけとも違うみたいだった。


「よし。じゃあ滝夜、座って。右腕を前から水平に持ち上げて」

「ん」


 更に時間がかかる予感。

 そして見上げると、どうも動画を撮っていた。


「げ」

「ほんとなら360度カメラで撮影したいくらいだよ。真上に挙げて」

「これ、流出しないだろうな」

「ウグイスで管理する。だいじょうぶだよ。横に」


 指示の通りに上げたり下げたり、開いたり伸ばしたり、なんかヨガでもやってるみたいな気がしてきた。


「くそう、大臀筋欲しかった。助手、補正できる?」

『ある程度の精度で可能です』

「了解」


 それって、ぱんつ撮られるってことだよね……

 でも、陽太のこんな真面目な姿、きっと見たことある奴は少ないだろう。なんだか嬉しいし、友達がいがある。

 喜んでもらえて良かった。


「ありがとう~!!」


 ぱたっと仰向けに転がって、やりきった感満載の陽太が終了を告げた。

 おれも疲れてばったり。


「ありがとう」


 なんだかハァハァしながら、もう一度言う。


「滝夜の身体って綺麗だね」

「それ女に言うやつ」

「あはは」


 ちょっと照れちゃって誤魔化したけど、その言葉は完璧な褒め言葉としておれの中に残った。

 師範の家で風呂に入る時、油性マジックで書いた黒い線が、ゴシゴシこすっても薄く残ってて、その度に思う。

 陽太の眼差しがキラキラしてたこと。

 綺麗だねと、言ってくれたときの憧れのような視線を。


     +


 母さんが来る少し前に輝夜は教えてくれて、おれはすぐにドアを開けることができた。

 何故わざわざそうしたのかは見たら分かった。大荷物。


「どうしたの、たくさん」


 朝湖まで何か持っている。大小形取り混ぜた箱や袋やなんやかや。


「滝夜さんのパソコン持ってきた。リモートに必要でしょう」


 あ、そうか。

 おれがまだここにいるなら、月末の一週間にやるリモート学習に使うんだ。

 提出物もあるし、この時テストもやるから、絶対に必要。

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