第218話 読書推薦文
「それからこれが学校のタブレットで、これがペン。それから……」
次々にテーブルに置かれるものの中には、そういうのとは関係ない師範への差し入れとか、みんなで食べるおやつとかも入ってた。
「あとこれ」
そう言って置かれたのは、小さな文庫本が二冊、本屋さんのカバーがかけられている。
手に取ってみると、「かくれさと苦界行 隆慶一郎」……!
「これ、続編?! ありがとう!」
もう一冊は、もう読んだ「吉原御免状」、めっちゃ嬉しい!
モコに返しちゃうって思ったら、なんだか淋しかったんだ。
これで今度の研修のとき、ちゃんと返せる。
母さんはおれのパソコンの設定をやって、寺へ寄ってから帰って行った。
おれはるんるんで部屋へ荷物を運んで、さっそく続編を手に取って寝転んだ。
『滝夜さん』
「なに?」
『読むのストップです』
「えっ、何で?」
楽しいことを輝夜が止めるのは、すごく珍しいことだ。何かあったのかな。
『読書推薦文を書くのです』
あ。
そうだった。
元々宿題にしようって思ってたんだった。忘れてた。
ちょうどパソコンも来たし、確かにやるなら今だった。というか、そのために今持ってきてくれたのかもしれない。母さんならあり得る。
続き読みたいし、早くやっつけよう。
おれはパソコンのスイッチを入れて、学校のアイコンをクリックする。
提出物のタブにある「読書推薦文」を開くと、条件に900字以上と書いてあった。長々と友達に語りまくった経験から言って、ちょろいと言わざるを得ないぜ!
そしてシンプルなフォーマットに、最初の書き出しを試みる。
試みるけど、あれ、どう言えばいいのか分からなくなったぞ??
すごい小説を読みました? おかしくね? すごいってアリ? 面白い小説をに変えた方がいい? って言うか、そこから始めるのってどうよ。推薦ってつまり人におすすめするっていうことだよな? すごかったから読んでっていうのはいいとして、それって何て言えば……
言いたいことと書く内容が一致しないまま、いつまでもカーソルは微動だにしない。
こんなつもりじゃなかったけど、そういえば今までだって、すんなり書けたことなんてなかった。
あふれ出るほど書きたいことがあれば、文章はそれだけたくさん出てくると思ってたけど、どうもそうじゃないらしい。
「助けて輝夜、書けない」
『そうですね、ではわたしに聞かせてくれた感想を文章に出力します。それをかいつまんで構成してみましょう』
「そうかも。ありがと」
相当語ったから、削り倒してもあまりあると思う。すぐに開いてみると、文字数を見てびっくりした。
「二万八百九? マジか」
ぜんぜんピンと来ないが、900字との差は歴然だ。ページがものすごい続いてる。それはすごい。
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