第202話 参とお風呂

「どーゆーことなんだよ、もう、ぜんっぜん意味分かんないよ。ファンクラブ? 意味分かんねえ!」


 ファンクラブってなんだっけレベルで意味不明だ。

 何がどうしてどうなったんだ。一から十まで説明して欲しい!


「説明する。でも時間ない。風呂入って」

「僕が説明するよ」


 うぐぐ。

 参に言われると感情のぶつけ先が無くなっちゃう。

 別に、怒ってる訳じゃないけど。


 おれはごはんの最後の一口をきっちり待たれて、口に入れた途端風呂へ追い立てられた。


「き、着替え……」

「持ってくるから」

「やめて~ぱんつ見ないで~」

「俺が持ってくるから」


 背中押されて風呂へ投げられ、参といきなりの裸の付き合いが始まる。


「へえ、いいお風呂だね」

「……うん」

「山田家は凄いなあ。憧れるね」

「……うん」


 ザバザバお湯被りながら、渡されたタオルで身体を洗い始める。

 別に汚れてないのに理不尽だ。

 つい仏頂面になってしまうおれに、参は微笑みかける。


 うッ! 眩しい正義の太眉!


「こないだの試合で優勝したでしょう」

「うん」

「あれ、記者が例年の何倍も来てたんだって」

「へえ……」

「それで、その日の夕方から、滝夜の映像がずっと流されてたんだ」

「ふ~ん。……え? ずっと?」


 何だそりゃ! ずっとって、あり得ないだろ!

 ただの、いつも注目されない剣道大会だよ?

 ずっと?


「ああ、ワンシーンがずっと使われてってこと?」


 それならよくある使い回し映像だし、ずっとでもある。


「違うよ? 試合は決勝だけだったんだけど、その後面を取ったでしょ? その映像がすごいアップで撮られてて、しかもイケメンに映ってたんだよね。女子が騒ぐくらい」


 きょとん。

 きょとん、ってこういう時に使う擬音だよね? もう使うことないだろうけど、今、おれは正にきょとん顔をしているはずだ。


「ちょっと何言ってるか分かんないんだけど」

「つまりそれがきっかけで、すごい話題になって、撮影された全ての映像が公開されて、連日テレビでもネットでも、ずっと注目の的ってこと」


 ザバー


 お湯をかぶって、参は湯に浸かる。

 取り残されたおれは、今聞いた情報がちっともピンと来なくて呆然としていた。


「早く洗って入らないと、マコ入って来ちゃうよ?」


 あり得なくない!!

 おれは急いで泡を流し、参の隣に入った。

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