第192話 朝風呂サイコー!

 目が覚めた。

 そこはホテルみたいな洋室で、窓辺に木々の緑が明るい日差しを反射している。


『おはようございます滝夜さん。朝まで寝ちゃいましたね』

「……おはよう」


 昨日は試合だった。

 昼寝のつもりだったから、服も着替えてない。


 よく寝た。

 眠る前までのことが、まるで夢の中のことみたいに。


『ハノさんが、ご飯もお風呂も用意してくれましたから、いつでも大丈夫ですよ。陽太さんと小猫さんも起きてます。ハジメさんはまだ眠っています』

「ハジメ、昨日遅かったの?」

『夕方には戻られました。ちゃんとご飯もお風呂も済ませてますよ』


 ぽっかりと空白になった思考に、生理現象がやってきた。起きてトイレ行こ。

 何も考えられずに階下に下りていくと、陽太と小猫が振り向いて「おはよー」と言った。


「おはよう。昨日、ありがとう」

「フェッフェッフェッ、神妙じゃな」

「僕たちお昼前に着いて、お弁当食べて、決勝見てすぐ帰ったから、滝夜勝ってて良かったよ~」

「わあ、負けてたらどーすんだよ」

「知らない人の見て帰ったと思うよ?」

「でえとじゃからな」

「ね~!」


 相変わらず仲良しで結構。

 風呂入りたいな。


「ハノさんがお風呂用意してくれたって」

「うむ、入るが良いぞ」

「僕たちもさっき入ったし」

「出る時掃除しておけ。教えてやる」

「はーい」


 おれが最後ってことね。了解。


 身体を洗い、湯につかりながら思う。

 朝風呂サイコー!


 夜と違って、眩しいくらいの光が間接的に入ってきて、至福の空間になってる。

 ゆったり身体を伸ばして、仰向けに目を閉じる。

 檜の香りを吸い込んで、吐く。


 こんなに真っ白になってるおれが、昨日の経験を内包してるとは信じられないな。

 何かが変わっただろうか。

 高みに上り詰めたあの時間が、おれにもたらすものは何だろう。

 湯から出したこの右腕も、昨日と今日では違うのか。

 この手のひらも。

 顔を洗ってちょっと笑う。

 すぐに分かるようなことじゃない。

 きっと後から振り返って、そういえばあの時の経験が、と思い至る、そんなものなんだろう。


 早く師範に会いたい。

 なんて言ってくれるんだろう?


 ザッと上がって、身体を拭く。

 早くご飯食べて、会いに行こう。

 そう思うといてもたってもいられず、髪も適当に、急いで服を着た。


 カラッ


「掃除」


 小猫が現れて、義務を宣告した。

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