第182話 第一試合
『ハジメ、始まるわ』
クレアの声で、慌てて中央のモニターを見る。6面ある会場がぜんぶ収まっていて、正直どれがどれやら豆粒が動いてるみたいだ。
それでなくとも剣道の格好って紺か白かの区別しかなく、面をかぶられたら誰が誰だかもうなんとも……
そう思ったらすぐに一つの会場がアップになった。
それでも誰だかはちっとも分からないが、どっちかが滝夜で、すぐに試合は始まった。
────二人の選手が中央に寄り、竹刀の先が振れたと思ったらすぐにすり抜けていった。
スーツの人が旗をサッと揚げる。
「え? どっちが勝ったの?」
『滝夜さん。見てなかったの?』
「どっちか教えてくれへんもん、分からん」
『頂いた資料に載ってるでしょう、甘えない』
それはともかく、一瞬だった。
勝った選手の竹刀が少し揺れて、すぐに相手の後ろへ向かって動いてた、それくらいしか分からなかった。
それはともかく、勝ったんか。良かった。
残念ながら運動はからきし、半端な知識しか持っていない自分を恥じた。
遅ればせながら手にした資料で確認する。
既にマークした滝夜はトーナメントの一番端っこ、小さい数字で第一試合場の第1試合であることが分かる。
『見て』
声に弾かれて見ると、画面にはっきりと竹刀が跳ねるのが見えた。
「2回やるん?」
『そう。滝夜さんが二本取った。勝ち抜け』
「おお……」
そんなことを言っている間に、礼も済んで二人は場外へ見えなくなり、もう次の選手が礼をしている。
ほんとうに忙しい、やる方も運営する方も、落ち着くヒマも無い。
滝夜の次の出番は第一会場の10試合目だから、まだしばらく後になる。
「お友達勝ったんですね」
放送室には、ハジメと背中合わせに一人だけ女性がいて、必要なときのアナウンスをしている。
「はい。なんや嬉しいですね」
「知ってる子が勝つと自然にそうなっちゃいますよね。立場上いけないと思ってても」
そう言ってまた背を向けてしまったので、ハジメもモニターに向かう。
ずっと注視していたのは壇上にいる報道陣の動きで、さっきは急に動きがあったので気付かなかった。
────つまり滝夜を映してたんや。
やっぱりというかなんというか、目的はそれしかないみたいだった。
他にあるやろ、取材せなあかんもんなんか、いくらでも。
そう思っても彼らは良いネタを掴むまではあそこに居座るだろうし、もしかするとネタを求めてウロつき出すだろう。
真下さんと、県や教育委員会から派遣されてきた人たちは、ロビーやトイレ、観客席なんかに立って監視を続けている。
きっと以前と同じように、子どもには手ぇ出せんからいうて、保護者捕まえて聞き出そうとするはずや。
特に的場中学の保護者の動きを見てなあかん。
そういう指示をクレアも理解しているけど、心配でずっと見てしまう。
応援とか、できんかもしれん。
ごめん、滝夜。
そんなことを思った側から、記者の一人がどこかへ行こうとしているのに気付いた。
「クレア」
『分かってる。マスターが追跡してるから大丈夫』
「そうか」
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