第181話 晴れの舞台
「選手にはこれが配られてます。2年生の子以外!」
言われた人は手を上げて、一人ずつ渡されたのはケアウグイス。
そうか、みんなにもウグイスが付いてくれるんだな。
「使い方は2年生に聞いて。後で! 座席は決まってるので、試合待ちの選手以外は自分の席にいること。お弁当も自分の席で。今から荷物を置いたら下で開会式なので下で集まって。表彰台の子以外は試合終わったら帰っていいです。トイレは一階にあるものをできるだけ使って下さい。混み合うので今行ける子は行って下さい」
「あ、おれ行きます」
「うん、あと、滝夜くんについては、何も答えない。聞いてくる人がいたらケアウグイスに伝えて下さい。いいね」
「はい!」
指定された場所は向かって右手の席で、きっちり人数分だった。
荷物を置いて支度をしながら、会場を見る。
いつもと違うのは舞台だった。
そこにはいつも、なんとか会長とか偉い人が数人座ってる。後は隅に大太鼓があって、始めと終わりに鳴らすくらいなんだけど。
今日はそこに、報道陣が所狭しとひしめき合っていた。
いつもはカメラマンすら目立たず、テレビカメラですらちょっと撮っていなくなるのに、凄い台数。
置くスペースがなかったのか、テーブルもイスも見えない。脚立付きのカメラの熾烈な場所取りが行われていた。
あそこに押し込められているなら大丈夫だ。
会場中の目が彼らに注がれているんだ、めったなことはできないに違いない。
おれはすっかり安心して、頭を切り替えた。
「そろそろ下へ降りるー」
丸井先輩が声をかける。
1階の座席は試合場から僅かに高く、手すりでぐるっと仕切られているので、おれ達は入り口近くの階段で降りる。
「お願いします!」
礼をして、一歩を踏み出すと、つるつるとした板間の冷たい感触。
さあ、もうすぐだ。
ドオオオン!
大きく大太鼓が打たれて、場内にピリッとした緊張感がみなぎる。
大きな体格の偉い人が挨拶して、いくつか注意事項を伝えたら、開会式は終わり。いつも簡素だけど、今日も短かった。
そんなことよりも試合時間を充分取りたいんだろう。
解散して席へ戻り、必要な物を持って自分の試合会場へ急ぐ。
大きな会場はビニルテープで枠が引かれ、6つの会場に分けられている。
おれは自分の第一会場へ行き、係の人に名前を告げて準備する。
キュッと面の紐を締めて、竹刀を持ち立ち上がる。
慌ただしいがもう呼び出しだ。
既に並んでる選手たちの前へ並ぶ。
最初の試合はすぐ。一番最初の試合だ。
晴の舞台って言葉があるように、おれの試合のイメージは、大きくて清廉なステージだ。
この広い床の真ん中におれは立ち、それを大勢の人間達が見守る。
騒がしいその場内でおれはひとり集中する。まるで他に誰もいないみたいに音は消え、平らな板間に静寂が訪れる。
名を呼ばわれ対峙するまで、相手すらいない時間。
この舞台にいつまでも立っていたい。
それがおれの試合。
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