第174話 あらあらまあまあ

「あら」「まあ」


 扉が開いたような気配を感じたのか、なんとなく目が開いた。

 そして気付く。


 ────寝ちゃってた!

 すっぽんぽんで寝ちゃってた!!


「輝夜誰か来た?」

『ハノさんが来ました』

「うおおお起こしてよ~」

『ごめんなさい』


 いや、輝夜はおれがどんな格好して寝てたとか知らないんだから、謝ることじゃないけど。


『たぶん朝ごはんの用意ができたので、呼びにいらしたのだと思います。他の人も起こしますね』


 朝ごはんの一言でおれの腹が盛大に鳴った。


「変なもの見せてごめんなさい」


 一応謝っておこう。


「おほほ、朝早かったものねえ、でも風邪引いちゃうから服は着てね」

「はい。すみません」

「さあさ、ご飯つぎましょうね。他の子は起きてくるかしら」

「たぶん……」


 絶対とは言い切れないなあ。小猫は起きるにしても。


「おはようございます」

「あ、ハジメ」


 今日二度目のおはようございます。今度はいつものちゃんとしたハジメだ。

 間をおかず小猫も陽太と降りてくる。

 のんきに、眠りの足りた陽太がご挨拶。


「おはよ~みんな花畑行った?」

「行ったよ、凄かった」

「滝夜なんか稽古までしたんやお疲れさんやろ」

「早かったからおれも寝ちゃった」

「たくさん食べてねえ」

「いただきま~す!」


 白米に焼き鮭、だし巻き卵にインゲンの胡麻和え他たくさんの常備菜、お味噌汁。あ~ごはん何杯でもいける。天国。


「明日何時にここ出るの?」

「えっ知らない」


 言ってから思った。これはヤバい。


「母さんが迎えに来るんだけど」

「もうちょっとしっかりしろよ、滝夜~」

「陽太が言う~ハハハ」

「輝夜知ってる?」

『明日、朝6時半の予定ですよ』

「やっぱ早いんや」

「ハジメも来るの? やべえ嬉しい」

「変装しよ思て」


 そうかハジメも人気者。顔もバッチリ割れてて、おれより騒がれるかも。


「ハジメは来るならマジで隠れててね」

「どうして?」

「ハジメと滝夜と咲良が同じグループだってバレるからだよ」

「追われる人数が増えるのう」


 そうか。

 でも、嬉しいことや楽しいことに、必ずネガティブな要素がつきまとう。

 おれには純粋に喜べること、もうないのかな。


「俺は真下さんと一緒だから」

「そうなの?」

「それならもっと早いのう」

「準備もあるから、今日の夜からだよ」

「わあ、前日入り?」

「なんか本格的やん?」


 みんなは笑ったけど、おれは笑えなかった。ハジメはおれのために前日入りなんてする。おれが試合出るってわがまま言ったせいで。

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