第165話 文才ってどうすれば身に付くの?

「ちょっと作業する。ジャマやったら2階行くけど」


 ハジメがパソコンを広げて言った。


「むしろおれ等がジャマなんじゃないの?」

「それは大丈夫」


 謙虚だな。


 今日の配信はもう終わってる。今からそれのチェックなんかをするらしい。

 毎日だから、凄いな。


「再生回数はだいぶ落ちてる。特にリアタイしてるようなんは少ないな。また研修あったら盛り上がるやろうけど」


 そう、確かに最初と比べて騒ぎは沈静化していた。仲間内でも見てないやついるし、おれも後からまとめて見たりする。

 元々面白動画ではないし、切り口が真面目だから、中学生が好んでみるかというとどうかな? とは思う。


「今でもこんな動画見てるいう奴は、そもそも問題意識持ってる奴か、悩んでる奴。そういう意味でも、少なくとも1年は続けるつもりや」


 ここに友達だからっていう理由だけで見てる奴もいます。


「将来はジャーナリストになるんだよね? 経験積むってことでしょ」

「まあそう。文章の方も頑張ってはいるけど、こっちはキビしいな」


 ハジメでキビしいなら、おれなんか絶望しかないな。


「文才? っての、どうすれば身に付くの?」

「書いて、読んでの繰り返し。上手い人の読んで、自分で書いてみんと力はつかん」

「何読んでるの?」

「色々。時間を惜しんで、朗読を聴いて済まそとしたら、クレアに怒られてもうた」

「ちゃんと読みなさいって?」

「ちゃうで。”文字の並びの美しさを知らないで書けると思ってるなら相当おめでたいわね”」

「こっわ」


 何をしたらニコニコウグイスちゃんがこんなサディスティック姉さんになるんだ。


「そう言えば読書推薦文書かないとじゃん」


 嫌なことを思い出してしまった。宿題で1800文字も書かないといけない。

 毎年毎年、おれの中で最大の憂鬱。


「もう書いたわいな」

「早っ!」

「こねこちゃんはいっぱい読んでるもんね」

「ええっ!」


 意外な読書家……!?


「失敬な」

「何読むん?」

「みすてりーじゃな。教養とは縁がないぞ」

「一大ジャンルじゃん。充分だよ」


 おれからしたらほんと充分過ぎる。


「ハルたんも読んでるぞよ」

「僕雑誌が多いから」


 雑誌……?

 雑誌って、週刊誌とかでは、もちろんないよね……?


「本は本じゃろ」

「雑誌ダメって書いてあったもん」

「差別じゃな」

「全くだ」


 と、思い出した、陽太の部屋にぎゅうと押し込まれた物の中に、背表紙らしきものがあった。

 揃ってて、みんなタイトルが日本語じゃなかった。


 専門誌……? 凄くない……?

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