第166話 隆慶一郎 吉原御免状
「読む本決まった?」
「僕はバイオアクチュエータ概論」
「おおっ? なんやそれ」
「最新科学って興味あるんだ」
なんでもない風を装ってるけど、それがガチであることをおれと小猫は知っている。
「ほーっ、理系やな」
「滝夜は?」
「あ、そういやモコちゃんに借りた本あった」
この流れで思い出したけど、あれ、どこやったかな……
「はあ? 5日も前やんか!」
「タイトルは?」
「なんだっけ」
「まだ見とらんのか」
「呆れた~」
どっかで既に経験済みの集中砲火だわ。
「ちょっと持ってこようかな~っと」
そろそろっと2階へ上がって、さて、と思う。
どこに入れたんだっけ……?
カバンは2つしかないんだから適当に入れたとしても探せばすぐ出てくるはず。
それなのに、たっぷりの時間をかけて探し当てた、該当の本は綺麗なカバーがかかってた。そうかそれでタイトルの記憶がなかったんだ。
ちょっとホッとして降りていったら、食卓の上にはもう美味しそうなおかずの大皿が2つも並んでた。
そして、天ぷらを揚げるいい匂いがしてる。
ぐ~
腹の音が鳴った。てきめんだな。
「どこしまったか忘れたんだ~」
うう、陽太の指摘は甘んじて受けるしかない。
「見せて」
ハジメの差し出した手に、その本を載せる。
ぱらりとページをめくると、彼は言った。
「吉原御免状」
「知ってる?」
「知らない。隆慶一郎」
よしわらごめんじょう、も、りゅうけいいちろう、も、ハジメが読んでくれなかったら読めなかった疑惑。
そこへ小猫が顔を出した。
「昔読んだ。少し大人になれるぞよ」
「えっ、俺も読みたい」
「僕も-」
「文章が引き込まれる。好きな作家じゃ」
「ミステリーなの?」
「時代小説じゃな。ばあさんの本にあった」
「へぇ~」
スマホを取り出した陽太、ウグイスによりすぐに発見。
「電書であった」
「ほんと? 後でポチろ」
なんかみんなが読む感じになってるけど、ちょっと!
「ちょっと待って? みんなもしかしておれより読むの速いんじゃね?」
「見た感じそうかも」
「ぐっ……偏見とは言い切れない……せめて……せめておれが読むまでネタバレだけは……」
「ああ、そういうたぐいの小説ではないよ。あらすじだけでは読んだことにならん典型じゃ」
「えっ、なにそれますます読みたい」
みんなの読書意欲がガン上がりしたところで、お声がかかった。
「さあ、いらっしゃ~い」
「は~い」
おれ達は一斉に食卓へと移動した。
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