第157話 何かあったらおれのせい
「俺のイメージじゃ、食べながら話し合ってる感じだったんだけど」
そういえば、話し合おうって集まったんだった。
美味しいものを食べたせいか、さっき泣いたせいか、妙に気分はスッキリしてる。
試合に出たい気持ちは変わらないけど。
「クレア、現状説明してくれる?」
『はい。現在、滝夜さんのお名前、学校名、住所など、ほぼ知ろうとすれば分かる状況です。ネットでは書き込みできませんが、紙媒体などに残っており、個人間でやり取りされると防げません。残念ながら、”久我滝夜とつぶやくと消される”という都市伝説として拡散された経緯もございます』
「呆れるな」
『例の記者など報道では、定期的に記事がアップされ、最近の話題が「全国少年剣道大会」です』
完全に狙いに来てる。中学生相手に大人げないと思わないのかな。
「咲良のファンの動向は?」
『ファンサイトでは一時盛り上がりを見せましたが、熱愛報道という訳ではない、と冷静な声かけの上、事務所からの通達があり、今は沈静化しています』
「大勢で押しかける感じではない、と」
「そんなの分かんないよ、目の前にしたら」
安心はどうやったら訪れるんだろう。
「運営側はどういう対応を考えてるの?」
『選手を囲い込むことにします。保護者や関係者にはリボンなどを付けて区別して、接触できる人間を制限します』
「いつもとあんま変わらないような……」
「そうなの?」
「うん。結局ぐだぐだになるんだよね、選手も保護者席行くし」
そういう自分も飲み物なくなって母さんとこ行ったことある。
なんだか対策らしい対策は期待薄だな……
『警備員も増員していますし、ウグイスのカメラが入ります』
「ウグイスのカメラ??」
『はい。防犯用のカメラといいますか、場内を把握して指示を出します』
「すげえ」
「ふ~ん」
『それから、大人計画から真下さんが来ます』
「誰?」
「最初にいた女の人。白衣着た」
「あ~……いたね~」
「メローズにも来ておったな」
「頼りにはならないと思うなあ」
みんなにとっては「ただそこにいた人」な感じだもんな。
おれにとっては、なんていうか裏で頑張ってくれてる人って印象だけど。
「記者が場内にいるとして、直接来るってことはないだろ」
『そのはずです。中学生に直接取材できない項目は生きています』
「ずっと面をかぶってるってのは?」
「暑いよ!」
ほんとに暑いんだよ!
子どもの頃に比べたら材質変わってマシになったけど、ほんと暑いんだから!
「別に、試合は撮影されたっていいんだよ」
「顔見えへんから?」
「ううん。顔が見えたって。そうじゃなくてさ、報道のされ方っていうか、切り取り方っていうか」
ほんと、今までだってニュースの端っこに映ってたってどうってことなかったんだから。
「みんなが目指してる大会なんだよ。それなのに、咲良がどうって、関係ないじゃん」
真面目にやってる関係ない子からしたら、きっと勘弁してくれよって思うだろう。
「滝夜だけフィーチャーされるのもおかしいね。優勝者ならともかく」
「あっ、今もしかしてハードル上げた?」
「へへっ、そう聞こえた?」
「聞こえたよ。でも優勝した人だって、今までチラッって出るくらいだったんだよ。そこまで注目されることない」
「じゃあもし優勝したら貢献できるかもね」
「やめてよ」
そこでハジメが仕切り直した。
「つまり報道だ。お前はどうしたって学生だし、いち選手なんだから試合に集中するべきだ。記者を隔離したり注意したりしなきゃならないのは大人。だからそれは任せよう。それから報道に関しては運営になんとかしてもらうしかない」
「必要な絵だけ撮って、即アップできるようにしてるだろうから、時間との勝負だよね」
『そうですね。がんばります』
「頼むよクレア。ほんとに」
『肝に銘じます』
結局初めから分かってた結論になってしまったのは、たぶんおれのせい。
ハジメは説得に来たんだ。
それがダメになったから、もう打つ手がなくなった。
だから、もし大会がめちゃくちゃになるようなことがあったら、それは全部おれのせいだ。
間違いなく。
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