第154話 なんだかワクワクしてきた!

 時間になって師範が来、稽古が終わって雑巾をかけ、外へ出た。

 師範はどうも、この寺の住職とか、そういう人な気がする。

 頭坊主じゃないし、袈裟も着てないけども。


 ぐー


 腹が鳴った。

 何も食べずに稽古に来るのは、朝ごはんを陽太たちと食べる為だ。

 師範の家へ行ったら、奴らと会うこともなくなっちゃうのかな。

 とか思いながら山門をくぐった時だった。


「滝夜」


 敷居を踏まないようにまたいだおれは、下を向いていたから、その声に顔を上げた。

 ニッカリ笑った、ハジメがいた。


「────ハジメ!?」

「久しぶりやなあ」

「……って、どうして、え? びっくりした!!」

「ハハハ」


 面白そうに笑った顔が、めちゃくちゃ懐かしかった。前の研修からひと月も経っていないのに。


「も~めっちゃ来たかったでぇ? 早よ行こ。陽太ん家、早よ早よ」

「急かすな危ない」


 石段は押さないで降りて下さい!


「ここやろ、あの写真」


 おっ、お前もか!

 ニヤニヤ笑われて、おれは顔を背けて走り降りた。


 ハジメは笑いながら追いついて、おれは背中ぐいぐい押されて、ほとんど小走りに帰ったもんだ。


「久しぶり~」


 食堂へ向かう陽太がのほほんと手を振って、そのまま歩いて行った。


「相変わらずやな」

「おれ着替えとかあるから」

「あ、部屋行く行く」

「えっ?」


 一緒についてくる。


「俺も泊まるし」

「えっ! そうなの?」

「そうなの! めっちゃ楽しみ!」

「あっ、おれ昼から師範家行くけど……」

「俺も行くわ」

「いいの??」

「うん、話あったし」


 知らない間に話が出来てる、いつもの感じ。

 でも、それなら今日は一人じゃない。

 なんだかワクワクしてきた。


 汗にまみれた道着とか下着は朝ごはんの後洗濯するから、とカゴに入れたら、ハジメの視線に気がついた。


「いや、洗濯するねんなて思て」

「うん。なんか家事も修行中かも」

「滝夜すごいな! 感心するわ」


 そこまで言われると照れる。


「言うて中学生やで?」

「でも置いてもらってるし」

「うん、俺がおまえでもやると思うけど、辛さ感じないかっていうとな」


 分かってもらえて嬉しい。


「ハジメ来てくれてめっちゃ嬉しい。ありがとな」

「おう! って俺が来たかったんやって」

「ハハハ」


 一人じゃなかったらぜんぜん辛くなかった。たぶん。


「ハジメちょっとこっち見ないで」


 身体を拭こうとタオルを濡らして、ぱんつに手をかけてふと気付いた。今は一人じゃない。


「?」

「風呂まで遠いけど汗も気持ち悪いから、いつも身体拭くんだ」

「あ~そうか、温泉いうてもすぐシャワー浴びれる訳ちゃうもんな」


 後ろを向いてくれる間に、モタつきながらべたべたのパンツを脱いで拭いてしまう。

 新しい服をぱっと着て、「ありがとう、もういいよ」


「おう」


 なんとなく気まずい感じがするのは何故だ。

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