第151話 お母さん大好き

「部屋、どうしようかって……」

「ここで寝れば?」

「えー……」

「今日一晩じゃん」


 確かにそうだけどさ。

 おれは微妙なお年頃なんだよ。


「離れたければあそこで寝ナサイよ」


 そうやって指さしたのは多分押し入れ。おれはドラえもんか。


「ままんは滝夜さんと朝湖、川の字で寝てもいいけどー」

「いやちょっと勘弁……」

「えー、一緒でいいじゃ~ん。一緒に寝ようよ」

「……大部屋で寝マス」


 おれの表情筋が死んだ。


「陽太の言う通りだった」

「でしょ? だいたいおじいちゃんに弟子入りしてて、すぐ帰るとかあり得ないじゃん」

「母さんもいると思ったんだよ」


 パソさえあればどこでもできるらしい母さんの仕事。今回もノーパソ持って来てるし、そうだと思ってた。


「滝夜はお母さん好きなんだねえ」


 あどけない顔でニッコリ覗き込まないで。


「そんなこと言って、陽太だってマザコンじゃん」

「僕? マザコンじゃないよ?」


 ────そこで脳内に浮かび上がったマザコンエピソードに「病気」の文字が乗っかる。


 送ってもらったりするのは病気のせいだって言うなら、それは別にマザコンじゃない。

 朝起こされないのも家事をしないのも、病気のせいなら不思議じゃない。

 お母さんのことをママって呼ぶのは、ちょっと恥ずかしいかなって思うけど。


「うんゴメン。病気だからだよね」

「え? ああ、甘やかされてるのは否定しないよ。それは病気関係ないし」

「え???」

「僕、すぐ死ぬ訳じゃないよ?」

「……」


 子どもの内にってんなら、この2、3年に死ぬんだと勝手に思ってた。違うの??

 しかも、やっぱ甘やかされてんじゃん!


「これって決め手に欠けるけど、僕は身体が弱いんだ。一応病名はつくみたいなんだけど、すぐに死ぬって訳じゃない。大丈夫だよ」


 ちょっと安心したけど、これどう受け止めたらいいんだろ。無理させなきゃいいんだろうか……


 とか考えてたら、陽太がフフって笑った。


「滝夜ってお人好しだねえ」

「え~?!」

「素直っていうか、考えなしっていうか。ちょっとは疑いなよ?」


 黒いこと言って、あははって笑った。

 ど~いう意味~?!


「友達疑うとかしねえよ」

「あはは、そうだね。友達に限らずだよ」


 こう言われちゃ捨て置けない。ハッキリさせようじゃないか。


「じゃあ聞くけど。死亡宣告はされた?」

「二十歳まで生きられないとは言われた」

「えっ」


 勢いで聞いちゃったけど、真顔で返された。


「それっていつ」

「子どもの頃だね」

「お医者さんの見解は変わってないの?」

「特に訂正はされてないよ」

「……」


 じゃあとりあえず言えることは、今んとこ大人にならないっていうのは不確定ってことだ。

 でも身体は弱い。無理できない。


「小猫と結婚するのはそのせい?」


 ここにいない、小さく丸い背中を思う。


 あいつ、イイ奴だ。


 最初は妖怪とか言ってたけど、それはぶらさがり被害に遭ったからだし。


「あ、小猫もなんか……「小猫ちゃんは違うよ」


 かぶせてハッキリ言い切った。

 真面目な目つき、陽太にしては珍しいほどの。


「でもか弱いから助けてあげてね」


 ニッコリ☆


「まあいいや。身体ヤバくなったら言えよ。知らないうちになんて、絶対イヤだから」

「うん。約束する」


 これだけでいいや。

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