第142話 ごっとん

 戻ったらみんなまだ寝てた。


 よく見るとヤバイなコレ。

 腕や足が下になり上になり、下に引いたふとんはバラバラになってほぼ畳の上で寝てるようなもん。

 あ、佐々木くんの足が小林くんの頭を踏もうとしてる……


 そんなカオスの中、真ん中にも関わらず、どーんとふとんで真っ直ぐ寝てるのは、もちろん石上くん。

 立派だなあ( ̄▽ ̄)


 御刀を返そうと思ったけど、当然というかまだ寝てたので、置いとくことができず持ってまま、道着を置いて、たぶんもう起きてるはずの母さんとこへ行く。


 行く……けど、どこだっけ??

 廊下をぐるぐるしてたら食堂に出て、妖怪と目が合った。

 朝っぱらから目が合う妖怪って、たぶんこいつが初めての存在じゃね?


「おはよう」

「うむ、どうした?」

「……」


 母さんの部屋が分かんないって、言えない。こいつにだけは頼りたくないとかいうより、そもそも迷ったのこいつのせいだし!


「おはよう小猫ちゃん。あら滝夜さん、おはよう」

「おはよー」


 背後から母さんと朝湖がやってきた。タイムリー!

 しかし二人とも、見覚えのあるたぬきTシャツを着てるな……


「おはよ……」

「朝ごはんの準備手伝う?」

「えっ?」

「おはようございます」

「あらおはようございます~」


 さらにやって来たのは知らない女性。しかし母さんが愛想よく返事してるとこみると、山田家の人間か?


「ご飯炊くのとスープだけ作ります」

「分かりました」


 ウェーブのかかった茶髪はまとめて頭の上に載っかってる。表情があんまり変わらない、地味な女性だ。


「話あるんだけど」

「何?」


 手を止める気配がなくて、おれは言い淀む。うん、別にどうしても今じゃなきゃダメって訳じゃないけど。

 そうしてる間にも、朝湖に玉ねぎ三個~、とか指示を出してる。おれは諦めた。


「後でいいや」

「あらそう。で、手伝いは?」


 おれの手は御刀でふさがってる。


「ムリ」


 おれは部屋へ戻った。


「おはよう滝夜くん」


 中央だけぽっかりと空いた畳空間は、石上くんがふとんを畳んだんだ。

 もう着替えてて、美声でごあいさつ。


「おはよう参くん。呼び捨てでいいよ」

「じゃあ君も参で」

「了解」


 今ごろこんなこと言ってるなんて遅いよな。でも嬉しい。


「それ、真剣?」

「うん。陽太の」

「へえ、素敵だね」


 彼の声で聞くと、宝物を持ってる気分になる。実際宝物だけどさ。


「返したいけど、まだ寝てるから」

「はっはっは、本当、姿見せないよね」


 笑うとこ聞くと心があったかくなる。

 おれ、参好きだな。


「稽古、どうだったの?」

「うん、今日はあんまりやってない。でも凄かった。御刀って、ホントに斬れてしまうものなんだなって」

「ふうん。僕は柔道だからよく分からないけど、気を付けてね」

「うん、ありがと」


 柔道やってるのかあ、似合い過ぎる。


「あ、そう言えば母さんがみんな起こしてって」

「うん、じゃあ起こそう」

「朝ごはん作るんだって」

「そりゃあ楽しみだ」


 そう言いながら参は、手近なふとんから引っぺがしては隅に行き、畳んでいく。

 そうか、片付けにもなるし一石二鳥。


 ごっとん


 心配になるような音を立てて小林くんが転がされる。


「っだよ!」


 機敏にキレて起き上がったところへ、参が一言、「おはよう」


「……おはよう」


 毒気を抜かれて返事してしまう小林くん。寝ぼけてて目をこすり、ぼーっとしてる。

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