第116話 ひぃばあって呼んでね

「お~い! 男子諸君! 来てやったゾ!」


 スパーン!と音高く戸を開けてマコちゃん登場。後には梶口さんとか鬼ノ目さんとかが見える。


「お~マコっち!」

「女子部屋どこなん?」

「ええと、こっからちょうど反対側かな?」

「違うよ、廊下挟んで隣!」

「ええ?! 超遠かったし!」

「だから、小猫ちゃんのイタズラ」

「ええ~!!!」


 女子にもやってたんか、あの妖怪。


「男子部屋はこちらか」


 後から顔を出したのは有沢さん。


「小猫殿によると、飯は自分たちで調理するようだ。食堂へ行くぞ」


 爆弾発言!!

 阿鼻叫喚のおれ達!


「ええ~!」

「マジか」

「メシ作ったことある?!」

「ない!」

「カレーとかしか……」

「調理実習とか」

「クッキー作ったことある」

「お菓子じゃん」


 食べられるものが作れる気がしない……


「こっちじゃ」

「遠回りすんなよ」


 小さい猫妖怪の後をゾロゾロと、おれ達は歩いて付いていったら、食堂はすぐだった。


「広~い」

「テーブルじゃん」


 食堂は4人がけのテーブルと椅子がいくつも並んだ、洋風空間だった。

 床もツルツルしたタイル。


「食堂は調理場とつながっておる」


 と小猫が言ったところへ、見慣れた人がおれ達を迎えた。


「いらっしゃい~オムライス作るよ~」

「遅いぞ滝夜!」


 やたら広い調理場(厨房? レストランでも開けそうだ)でおれ達を迎えたのは、母さんと朝湖(ウルサイ)と、もう一人。


「こんにちはぁ陽太の曾祖母です。ひいばあって呼んでねぇ」


 こん↑に↓ちは↑ぁ↓

 そう↑そ↓ぼで↑す↓


 イントネーションはともかく、かわいいばあちゃんだ。

 曾祖母ってばあちゃんの母ちゃんってことだよな? 長生き!

 腰も曲がってないしシワもそんなになくって、すごい。何? 温泉のチカラ??


「よろしくお願いしま~す」


 そう、おれ達は行儀のいい普通の中学生。こういう時はなぜか、セリフも自動でペコリ。


「まっ! 間に合った!? みんなどこ??」

「落ち着け」


 食堂の方から慌しい声がする。

 ドタバタと駆け込んできたのは、もちろん八嶋さん、諌めたのは小林くん。


「待てというに」


 後から小猫。

 別段追いかけて走った訳じゃなさそう。いつも通りぽてぽて歩行。


「あらまあ大丈夫だった?」

「あッはい! 大丈夫です!」


 八嶋さんの大丈夫はいつ聞いても大丈夫そうじゃない。


「どうしてここ分かったの?」

「え? 声したから」

「野性のカン……」


 すげえな、初めて来たのに。


「そんなに慌てて来んでも良かったにぃ、はじめまして、陽太の曾祖母です。ひいばあって呼んでね」


 そうかな、みんなで作るごはん、絶対やりたいだろ。とか思いつつ、やっぱりイントネーション違う。


「はじめまして~」

「わたしは久我滝夜の母で、こっちは妹の朝湖。よろしくね」

「よろしくお願いしま~す」


 遅ればせながら母さんも自己紹介。


「やっぱ可愛いーじゃん」


 隣で脇腹をつつくやつがいる。

 おまえの目はフシアナだ。


「ウソだ~、妹が、妹、なんていう、存在が、可愛いだ、なんて~」


 いや、きっと他人だからそう思うんだぜ!


「まだ準備もしてないから、着替えて来たら?」


 母さんが八嶋さんを気遣う。

 よく見ると、すごくホコリ? 泥? まみれだ。


「あッ、はいッ! ありがとうございますッ!」

「その服は洗濯じゃな、ヒェヒェ」

「着替え、ある? 貸そうか?」


 意外にも、マコちゃん。いいやつ?


「ありますッ! むしろたくさんありますッ! ありがとですッ!」


 八嶋さん、駆け込んできた時のテンションが戻らない。確かに一度落ち着いて欲しい。

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