第101話 どうしておれなんだ

『咲良さんからメールです』


 眠く眠れず悩ましい、どうしようもない気持ちでただ外を見てたおれに、輝夜が言う。

 理解するのに数秒かかった。


 咲良さんからメールです────メール?


「なんて?」


 理解した途端すがりたくなって、勢いこんで聞く。


『滝夜? 今いい?』


 咲良だ。こんな遅い時間に。


「全然いいよ、なに?」


 すぐ通話になった。


『結構前に聞いてたんだけど、遅くなってゴメンね。大丈夫かなって思って』

「平気だよ、別に何か起きた訳じゃないんだし」

『うーそーつーきー』


 咲良はきっぱり信じない。


『わたしのせいだ。本当にごめんなさい』

「謝るのはナシって言ったじゃん」

『うん、でも』


 なるようになりそうなだけだ。


「うん、でもナシだ。起きることは想像つくし、対策だって取ってもらえる。大丈夫だよ」

『さっきのうさ衛門先生? うん、想像つくね』


 輝夜に突然呼ばれて、見たらうさ衛門先生の特別授業だった。

 相変わらず面白かったけど、当事者としては、これからのことを考えてしまって辛かった。


「SNSで身バレして、モノ好きがヒマに任せて見に来る。画像上げられて知らない人がおれのことを話す。想像つく」

『そうだね。なんか、芸能人みたいだね』

「なんもできないのにね」

『そんなことないよ』


 そんなことはあるよ。

 おれが特別な中学生だったら悩まなくても良かったはずだ。

 なんで蒼野鷹也みたいなアイドルじゃなくて、おれなんだ。

 芸能人は芸能人同士にしとけば良かったのに。もしくはハジメみたいに才能あるやつ。


 ────自虐は余計辛い。

 いい加減学べよ、おれ。


『どうしてそんなことするんだろね? ただペアだっていうだけなのに。気が知れない』


 ただペアだってだけ。

 そう言われて落とされたような気持ちになるのは何故だ。


「まったくだ」

『そんなことなら、学校だって隣の席の奴は男子だし、日直だってそうだし、授業だってあるのに』

「うん」


 そう考えると、咲良にとってさして特別なことでもないんだ、これは。

 確かに学校で大抵のペアは女子と組む。それがきっかけで好意を持ったり、付き合うとかに発展したりって、少なくともおれの周りでは全然ないし。


『みんなだってそうだけどさ……ちょっと仲良くなっただけで騒がれちゃうと、気持ちが乱されて分かんなくなる』

「咲良だからっていうか、目立つやつ全般にそうなんだろうな」

『有名税? やってられないわ』


 ほんと、やってられない気持ち分かる。

 気にしないって言っても限度があるよなぁ。

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