第95話 おうちに帰ろう
そして自動ドアを出た、その先。
────ハジメがいた。
「ハジメくん!」
「ハジメ!」
その向こうに、アイツ。記者、寺井憲がいる。
「おや、みなさんお帰りですか?」
余裕のある喋り方が気に触る。
ハジメはおれ達に気付いても見ようとはせず、アイツを正面から見据えている。
「ハジメに何の用よ!」
「ハハハ勇ましいな。僕に用は無いよ、さようなら」
噛み付いたマコちゃんは笑顔でスルーされた。そのまま帰ろうとする。
「待て、ハナシは終わってへん! なんでなん? その下らん記事で、一人の中学生がめちゃめちゃなるんで? なんでそんなに努力するん?」
めちゃめちゃに、のくだりでゾッとした。
ハジメのセリフはまだ続く。
「こないだの記事で何を得たん? 名声? 金? お相手が判明したら次は何? どこまでやるんや、それがやりたかった事なんか」
「ふ⌒んどこまででもやるけど。やりたかった事ではないね。名声も金も、そりゃあった方がイイけども、ふふんそりゃキミの事デショ」
ヤツの態度は変わらない。
どこまでも余裕で、ハジメを、おれ達のことをあしらってる。
「やりたないこと、何故やるねん」
「キミの言葉を借りるなら、記者だから、ってとこかな」
「記者だから? 意味が分かれへん! 俺は記者を志す人間として、おまえを許さへん」
そんな強い言葉を聞いてもヤツは平然として、むしろ笑いさえした。
「若さってイイね。懐かしいよ、本当に」
「……!」
ヤツのそんな暖簾に腕押し状態にショックを受ける。
ハジメが怒鳴った。
「やりたないこと、金でも名声でもない、やったら沢山傷付ける、分かってて一体何が不満なんや!」
「そんなの報道規制に決まってるでしょ」
売り言葉に買い言葉的に、言ってしまってから口をつぐむ。
記者寺井憲は何事もなかったように手を振って、足早に去って行った。
「じゃあ、またね。バイバイ」
「────ハジメ……」
「……みんな」
「どういう事?! アイツが来ること知ってたの?! どうして教えてくれなかったの?!」
食ってかかった鬼ノ目さんに、困ったような顔をして、くちびるを引き結んだ。言うべき言葉が見つからないとでも言うように。
昼メシん時に、もうすぐ片がつくって言ってたのは、つまりこの事だったんだな。片は、付かなかったけど。
『一つは寺井記者からの接触があり、どうしてもひとこと言ってやりたくなったからです。二つ目は────』
「自分だけでなんとかできるて、勘違い男やったからや」
クレアのセリフを引き取って自虐する。そんなハジメは痛々しくて、見るのが辛い。
「蔵野市ってバレた時、ヤバい思った。俺の家も特定されないように気ィ使こてたけど、何でかバレた。ごっつう取材力ある、ある意味尊敬できるからこそ、何でやって思て……」
『動画はチェックしたんですけどね。力が及びませんでした』
「リアルの知り合い当たられたら一発や、クレアのせいやない」
そこで、ハジメはおれを見た。
「すまん。多分、特定された」
ズシン、と腹にきた。
「謝るのは私です。話せば分かると思っていました。責任は取ります」
ハジメの後ろにいるの全く気がつかなかった!
メガネのチビ先生、柳真下さんが頭を下げた。
「早急に上司と相談します。キミ達は早く帰りなさい」
おれ達は何と言っていいか分からず、メローズの駐車場からバイクで走り去る彼女をただ見送った。
「……とにかく帰ろう」
「うん」
「バイバイ」
「気をつけてねー」
帰り道、おれ達は言葉少なに、それぞれの家路を辿った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます