第91話 元カレの非存在について

 メローズには、遅刻して怒られる生徒みたいにこっそり入った。


「あーもー!」

「おかしくない?」

「女子でしょソレ」


 窓ぎわでなく、入り口近くでもない場所だと見当つけて探すと、騒がれてる江口くんを見つけてホッとした。


「いつでも交換するぜ~?」

「要らな~い!」


 近づいてみると江口くんは、美味しそうだが過剰にデコったパフェを手にして、女子に差し出して嫌がられていた。


「遅かったな」

「ごめん」

「なんか取って来いよ」

「うん」


 既に遅れてるので、簡単に炭酸でも持って来よう。

 メローズはノンアルコールドリンクを一律にドリンクバーにしている。おれはとりあえずコーラをついで、席に戻った。


「何滝夜、つまらん」

「そうじゃぞ! ほれみぃわしのびゅーてほーなアイスを」

「初めて来たくせに」

「上手だよね」

「だって遅くなったから」

「気にすんなよな」


 この人数、やはりうるさい。

 奥の壁ぎわだけど、それでも周囲を伺ってしまう。

 最後に来たから余計に思うんだろうな。全員揃ってて、外から見たから。


「ねー、この中で付き合いたい人いる~?」

「恋バナかよ」

「他にある??」

「あんだろ普通に、趣味とか」


 うん、佐藤くんみたいにサッカーとかね。

 恋バナは、恋してるヤツかしたいヤツのするもんだからな(憶測


「えーっ! 好きな人の趣味しか興味ない」

「ってか好きなヤツとかいんのかよ」

「今まで」


 おおっと、擬装疑惑!

 確かにマコちゃん、最終的にイケメンとラブラブってゴールははっきりしてるけど、その高いハードルを越える男子が今までいたようには見えない。無理だろうし。


「いっ、いるしいたし!」

「どーだかね!」

「ナンジャッテ! いたもん! めっちゃいたもん!」

「めっちゃいたらダメじゃん」

「そーゆー意味じゃなくって!」


 いっぱい、またはとっても、日本語は難しいね。


「ハイハイ」

「いたって!」

「うん、そうだね!」


 まこちゃんは暖かい目でみんなから肯定された。


「恋バナってゆーけどさー、オレが聞きたいのはオマエらの話だよ」


 ひときわ大きい声で言ったのは刈谷くん。ビシッと指差す先には、妖怪ペア。

 何、妖怪の信者になっちゃったの?


「それがし妖怪は守備範囲ではないと申「それな! なんだよ、結婚て!」


 小声でぶつぶつと一気に語る比護杜さんをぶっちぎって、佐々木くん。

 まあ、確かに気になる。

 なにゆえに中二のみそらで結婚なのだ?


「結婚って、18にならないとできないじゃない? それまで待つの? それとも、大人になったら結婚しようとかいう、婚約なの?」


 鬼ノ目さんが核心を突く。


「婚約なん?」

「まあそーかもなー」


 妖怪♂はその童顔をニコヤカな笑みでギャラリーをケムに巻いた。


「なあに~? 全然わかんない!」

「そ、そりゃあさ、プ、プライベートっつーもんがあるから、全部とは言わないけど、ちょっとくらい教えてくれたって……」


 二本田さんの口からプライベートって言葉が出てくるなんて……成長したな。


「うむ、ぷらいべえとなんでな。じゃが、ちっとくらいならな」


 見方によっては得意げに見える顔で、妖怪♀が言うと、妖怪♂が心配気にひじをつつく。「猫たん」


「なんだよもったいぶって」

「まあまあ」


 聞きたい勢にはもどかしいんだ。そうでもない勢にはちょっと落ち着けよって言いたい、そんな感じ。

 おれはというと、うん、知りたいような気がするけど、急かすほどでもない。


「ハルたん、よいではないか。わしも人生初めての、惚気というヤツがしたいのじゃ」

「猫たん……」


 なんか、泣けるようないいシーンなんだけど。おれ達は騙されているのか??


「ちょっと話せば分かったのじゃ。めおとになる運命じゃと。法的なモノなぞ無意味じゃよ」


 いや、感動してもいいんじゃね?

 幸せそうな表情してる、このふたり。


「なんかおめでとう!」

「うん、お幸せに」

「良かったね~」


 みんなで祝福ムード。なんかパチパチしたりして。

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