第71話 みんな久しぶり!

 保育園は大きく見えた。


 道路に囲まれているけど、まわりはお店っぽい建物が多い。

 可愛いけど背の高い壁がぐるりと囲み、閉められた門の両側の柱には、ウサギとネコのマスコットが飾られていた。

 門の上に、可愛らしい文字で【みらいほいくえん】と書いてある。


 今はまだ朝早く、子どもたちは登園前。

 輝夜たちウグイスの案内で、おれらは業務用の入り口にまわり、待っている職員さんのチェックを受けて中に入る。

 思っていたよりセキュリティは厳重で、そういうことに慣れないおれたちは、かなり緊張した。


 中に入ると矢印の張り紙で誘導され、学校みたいな廊下を歩いていく。

 すごく静かで、みんなは言葉を発しなくなった。

 すぐに、【大人教室控え室】の張り紙のある部屋に到着した。


「ここかー」


 ちょっと緊張を引きずって、おれはそろそろとドアを開ける。


「おはよー」

「久しぶりー」


 既に来ていた仲間が振り向いて笑顔を見せてくれる。

 背中からヴワーッとテンションが上がるのを感じながら、挨拶を返す。「おはよう!」


「ロッカーにエプロン入ってるから着て、荷物入れて、手を洗うの」

「これで来てないのは咲良と七瀬だけだな、順当に」

「誰か一緒に来てあげたらいいんじゃない?」

「巻き込まれて共倒れがオチ」


 可愛いアップリケがついたエプロンは、女子は非常に良いけど男子は……特に小林くんとか、見ただけで笑顔になってしまうな!


「八嶋七瀬はトラブルメーカーっていうか、災難に遭いやすいの。前も滑り込んできたでしょ?」

「あー、なんかボロボロになってたな……」

「絶対なんかに憑かれてるんだよ。お祓いできないの? 妖怪」

「専門外じゃな」

「清ちゃんエプロンかーわいー!」

「死ね」


 おれのエプロンにはでかいポケットが二つ付いていて、それぞれに三毛猫と黒猫がついている。可愛い。

 ポケットの中にはミニタオルが入ってた。


「ハンドブックとかは持たなくていいの?」

「いいってよ」


 じゃあ手を洗うか。


「腕まで洗うんだって」

「へえー」


 水が気持ちいいな。

 ハンドソープでまずは指から、事前に習った通りに洗っていく。と言っても、その洗い方は学校でも習うものだ。小学校の時なんか歌まで歌ってたし。

 ミニタオルで拭いていると、ガラッと戸が開いて、息を切らした八嶋さんが入ってきた。


「おはよー、無事だった?」

「ハァッハァッ」


 ウンウン! とうなずく八嶋さん。

 無事には、うん、あんまし見えない。

 そこへ相方の小林くんが声をかけた。


「おまえさー、やっぱオレと来た方が良かったんじゃね」

「う、うん、ありがと」


 女子が歓声を上げる。「キャ~!」


「うっせえコロスぞ」


 照れてるようには見えないから、きっとマジなんだな。ちょっとすごい。


「マコも車で来たかった~! 今度は一緒に来よっ?」

「見境いないのう」

「面白いね」


 妖怪(♂)はにんまり笑って撃退した。

 ホント見境いない。


 腕を拭きながら、おれはすみっこにいるハジメが気になった。

 いつも中心にいるはずの奴が、どうして何もしゃべらず窓の外を見ているのか。

 その着ているエプロン、ピンク色の花柄で、忍野メメみたいだってめっちゃ言いたいけど、声がなんかかけづらいのは何でなのか。

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