第65話 誕生まで、長かった
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さて、そんな風にして子どもは母親の胎内に宿る。
生理が来なかったり吐き気や体調不良から可能性に思い当たると、検査薬を使ったり病院へ行ったりして妊娠が分かる。
しかし、気付かないこともある。ただ、子どもは月満ちれば産まれるし、遺伝子の異常があれば知らないまま自然流産している。
大半の人は生理が来なくて気付くんじゃないだろうか。だからそれは、可能性のあった日から半月ほど後のことだろう。
そして医者にかかると、
『おめでたですね。二カ月ですよ』
と言われることになる。
生理が基準であったことから、妊娠は最終生理から週数を数え、4週で一カ月と数え、40週で正産期となる。
正産期とは産まれる予想時期であり、予定日も同じことだ。つまり大体の予想でしかない。
体調不良は妊娠は母体が物凄く変化することによる。
胎児が必要な栄養を奪うので、あらゆる欠乏症になりやすいから、妊婦は定期的に検診を受けることが望ましい。
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だが妊娠は病気ではない。だから治すことはできない。
体調不良は一般につわりと言われるけど、とにかく吐き気がおさまらなかったり、食べられるものがなかったりする。
これを治す方法はない。
妊婦は自分のからだと相談しながら、手探りで食べられそうなものを探し、吐き気を誘発するにおいやストレスを避け、慎重に生活するしかない。
つわりの重さは人それぞれで、全くない人から死に至る人までいる。
本人にもどうしようもないことだ。
一般に16週まで続く人が多いが出産まで続く人もいる。
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流産について話そう。
24週未満の早産では予後不良な場合が多く、当然ながら正産期に入って出産するのが望ましい。
しかし、染色体の異常で自然に流産してしまうもの以外で、胎児は正常だが流産しそうな場合、安静にする必要がある。
安静とは動かないこと。
必要最小限のトイレや食事など以外はずっと寝た切りだ。切迫流産という。入院が安心だが、できない人もいる。症状が落ち着くまで続く。
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死産について話そう。
原因が分かる場合は稀だ。なんらかの理由で胎児が死亡する。母親に自覚はなく、検診で分かることが多い。人工的に出産するので母体は産後の状態になり、やり切れない。
自然流産でも、母親が妊娠を知ってからの流産は死産と同じダメージを心に受ける。周囲の人はそっとしてほしい。
妊娠を告げる人数は、そういうリスクを考えると、初期には少ない方がいいかもしれない。体調と相談しよう。
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妊娠中は、母親が見えない子どもを守ると共に、自分も守らないといけない期間だ。
人は経験からアドバイスをしたがるが、情報を取捨選択することも大切なことだ。
周りの人間は決め付けや、まして説教したりしないであげよう。心の弱い人はダメージを受ける。
物理的には重労働や転倒から守ってあげよう。特に危険な妊娠初期は外見も変わらず大変そうに見えないかもしれないが、何ヶ月も続く体調不良でふらふらかもしれない。
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さて、そしてヒトは誕生を迎える。
生まれる日は分からない。通常であれば陣痛が起きてそれを知る。
しかし、双子であったり逆子であったりなんらかの異常で管理入院し、帝王切開というお腹を切る手術で出産する場合は日程を決める。
出産は母親も子どもも命掛けだ。父親にできることはフォローだけだ。無事生まれたら喜びを分かち合おう。
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誕生まで……
長かった……
実際には、本当に妊娠する女の人はもっと長く感じるのかも。
こんなにハードルがあるのに、生まれてきたんだなあ、おれ。
ふつうのことだと思っていた。
だって、おれの周りにはおれのような子どもがたくさんいたんだもん。
生まれる前に死んじゃったら、もちろん知られることはないだろう。
生まれてから死んじゃったら分かるけど、それでも同じような子どもには隠すんじゃないだろうか。
何も考えずに生きてきたけど、こんな風に生きているって、当たり前じゃないんだな。
おれが将来子どもを持つとして、その子が生まれる前に死んじゃったら────そんなこと考えたくもないけど、でもそれは、ない訳じゃないことなんだ。
そういうことが、今でもふつうに、あるんだな……
将来の子ども、と思った時、ちらっと咲良の顔がよぎったのは、内緒。
長くて疲れたし、まだ日数がたくさん残ってるので、今日はそこまでにしておいた。
また今度。
もう眠いしな。
咲良もこれ、読んだのかな。
女子が読んだら、どう思うんだろう。
妊娠ってやっぱり、女子にはしんどいばっかりなんだなって、おれでも思うんだし、産むの嫌だって考えても全然おかしくない。
少子化だ少子化だって言うけど、そりゃ少子化だって仕方ないよ。
どうしても子ども欲しいって思わなければ、そりゃ産まないよ。
そういえば、子ども欲しいとは言ってなかったな。
なんとなく、子どもを持つんだろうなと、そういう雰囲気はあったけど。
子どもかあ。
おれは、欲しいのかな?
咲良の顔を思い浮かべたら、ぱあ~っとみんなの顔がよみがえった。
『マコめんどくさいことはしないの!』
『お子様はいらんのう』
『ぼくら面倒なことはしないんだよ』
『ガキ? そりゃ当たり前だろ。え? どっちかって? いるだろ、3人はやっぱ』
『うむ、考えないでもない』
『欲しいって言うなら考えてもいいかなぁ』
『全部やるなら、いいよ? 金は出す』
『二人で平等に助け合うなら欲しい』
言ってたことも言いそうなことも、脳内の連中はしゃべってる。
そうだな、欲しいとか要らないとか、感覚的な問題かもしれない。
欲しいと思ったってできないかもしれないし、要らないと思っててもできちゃうかもしれない────よく分かんないけど。
選べるようで選べない。選べないようで選べる。
ちゃんと考えたら、選べる。
ちゃんと考えて、行動すれば。
でもなんとなく、おれは欲しいかな。
子ども。
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