第二章 転生

第35話 不思議な世界で

 体中の激痛が突然消え、その代わりに貧血の時のような浮遊感を感じた。視界も回復し、先ほどの地獄絵図のような景色から一変、何色とも形容しがたいが、神秘的な何かを感じる景色が広がっていた。


 俺は不思議に思って周囲を見渡そうとするが、いくら目線を左右に振っても景色は一向に変わらない。


「さて、さっきのは災難だったね。」


 急に後ろから声がして、俺は慌てて背後を振り返った。しかし、そこには誰もいない。


「あぁ、ごめんごめん。君は本来ここに来るべき人間ではなかったから僕の姿は見えないと思う。それで、何か聞きたいことはあるかい?」


 聞きたいこと…。さっきの光はいったい何だったのか、俺はいったいどうなったのか、あの後みんなはどうなったのか…etc


「まあ急にあんなことになったらたくさん聞きたいことはあるだろうね。まず、さっき起きたことだけど、君が見た赤い星は言わばほかの世界からの敵だよ。あれは厳密にいえば星じゃない。世界と世界をつないだ時にできる特異点のようなもの…、君が作る転移魔法陣のゲートのようなものだよ。」


 何となく言わんとしていることは分かった。それで、俺はいったいどうなったのだろうか?


「君は残念ながら死んでしまった。ここで僕が君を蘇生させてあげることも不可能じゃないけど、何せ君の死体の状態が悪すぎる。多分蘇生した瞬間に失血死なりショック死なりですぐにこっちに戻ってきてしまうと思う。」


 そうか、じゃあ、ほかのみんなは?


「君が体を張って助けた水色の髪の女の子は無事助かったよ。あの後、世界中に君が見た光が飛んで行って僕の感知できる限り半数以上の生物が死んだ。それでも、君が大事にしていた拠点のみんなは君にとても良く似た雰囲気を持つ龍種に助けられたようだ。彼の命と引き換えにだけども。」


 黒龍も死んでしまったのか…。


「ああちょっと待って。君たちは黒龍、というか龍王種について勘違いしているようだから教えてあげるけど、ほかの龍種たちとは違って彼らは不滅だ。命を落としてもまたどこかの飛竜種、もしくは巨龍種の体に宿って復活する。決して黒龍が消えたわけじゃないんだ。」


 そうなのか。なら、いいか。それで、俺はこれからどうなるんだ?


「僕からは君に二つの道を示そうと思う。一つは、このままほかの死者たちと一緒に輪廻の輪によって黄泉と現を行き来して普通の人間として生き返る道。こっちはこれまでの記憶はすべて消えて、普通の幸せも苦しみも味わうことができる。一般人と何ら変わりはしない道だ。」


 それで、もう一つの道は?


「ほかの世界からの敵が本格的に侵攻してくる二十年位前に転生する道。君が生きてきた16年間の知識と記憶を継承した状態でどこかの夫婦の間の子供として生まれ変わる。そこで君には外界からの敵を排除して世界を守るために尽力してほしいと思う。そのための力もあげる…、といっても僕から君にあげられるものはほとんどないんだけどね。君の努力次第で幸せにも不幸にもなる道だ。」


 このままみんなの近くで生まれ変わるということは?


「残念だけど不可能だよ。そんなことをしてしまったらそれこそ自ら世界に歪を生み出してしまって崩壊させかねない。」


 そうか…。じゃあもう俺は二度とみんなに会うことはできないんだな?


「そうだね。世界を崩壊させてしまわないぎりぎりの速さで君を生き返らせたとしても800年前後になると思う。黒龍はともかく、ほかのみんなは君が転生した世界ではもう生きていないだろう。」


 …。


「だけど、僕は君に生まれ変わった世界でもう君と同じ目にあう人を生んでほしくないんだ。本当なら僕が出向いてほかの世界からの敵を殲滅したいところだけど、多分僕が力をふるえば世界は消えてしまうだろう。…だから頼む!」


 …わかった。だけど一つ条件を付けさせてくれ。


「なんだい?僕にできることならなんでも、いくつでも聞くよ。」


 もし、俺が大切にしたいと思えるような人が現れて、かけがえのない存在になった時、どんな形でもいい。その人たちを守るために尽力してくれるか?


「分かった。さすがに僕が直接行くことはできないから僕の使徒をつけて守らせると約束するよ。陰ながらにはなるけどね。」


 それで十分だ。最後に名前を聞いてもいいか?


「そうか、まだ君に名乗ってなかったね。僕は第2世界の守護神、竜骨のカノープスだ。」


 カノープス、よろしくな。っていうか神様だったのか。まあいいや。それで、俺はこれからすぐに生まれ変わるのか?


「うん。準備ができ次第生まれ変わることになる。といっても僕がいじれるのは時期と、君が生まれ変わって手に入れられる権能の二つだけだから正直どこの国のどの家に生まれるのかはわからないかな。あ、あと君にあげられる力はたった一つだけなんだけど、君が努力すればいろいろな力を得ることはできる。君に渡す権能は少し負荷がかかりすぎるから君が5歳になるころに発現するように調整するから、それを頼りに力をつけて行ってくれ。」


 わかった。それじゃあ、よろしく頼む。


「さて、それじゃあ今から転生させるよ。君がこれから転生するのは君が死んでから1572年後の世界。凶星暦1572年の8月9日だ。頑張れ、勇者君。」


 

 長い長い落下の感覚と共に俺はもう一度眠りについたのだった。

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