第7話

 新幹線は東京駅へ到着した。

 下車するしかない、巡は一泊分の黒いボストンバッグを肩に掛けてため息をついた。こんな時に私は恭一の顔を思い出していた。

 だらだらしていつまでも寝転んで、布団から脚をはみ出していつも冷たいその脚を私は布団に押し込む。慣れ親しんだ堅い背中に頬を付ける。そうだ、もう携帯なんかなくてもいい。場所も分かっているし、はがきとメモも鞄の中にあるはずだ。

 巡は東京駅のホームの降りたすぐの椅子に座って、バッグの中を探った。

「ない!!」

 (焦りまくっている、私、人生で一番)


「おい、巡。スマホがなければどうにもならんだろうが。俺に黙って部屋を出るからこんなことになるんだ。わかったか?」

 どうして、ここに?

 巡は声にならず、顔を上げて前に普段着で立っている恭一を見た。

「ごめん、こんなところまでどうして来たの?」

「同じ新幹線に飛び乗った、いや~、走った、走った」

 言葉にならず巡は涙ぐんで頷いた。

「当然じゃないか。おまえが困るだろうって」

 私のために、ずぼらで怠け者の男がたかがスマホのために、ここまで必死になってきた癖に、必死さを感じさせないふりをしている。この人が好き、言わせてほしい。

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