第95話 今後のこと

 数日後。オルヴァリオに会いに行くことになった。メンバーはクリューとリディ、サスリカ。チームメンバーだ。それと。


「無理するなよ」

「……うん。ありがとう。でももう大丈夫。ほら。歩けるよ」


 シアのリハビリが、終わったのだ。


「クリュー。リディ」

「!」


 玄関にて。出発する彼らに、エフィリスが声を掛けた。


「なんだ? エフィリス」

「あいつは、俺達を『2度』裏切った。分かってるか?」

「!」


 その言葉にリディが反応したが、何か言いかける前にクリューが制止した。


「勿論分かっているさ。ここから先は、チームである俺達が考える。エフィリス達には迷惑は掛けないと約束する」

「…………分かってるなら良い。いつ出てくるかだけ訊いとけ。パーティの用意はしてやるから。……エヴァルタが」

「いややるけど。君も手伝ってねエフィリス君」

「ああ」


 クリューは口角を上げた。彼もエフィリスのことはよく知っている。

 オルヴァリオは超特級トレジャーで洗脳されていただけだと、何度も国際政府相手に熱弁していたことを知っている。


 オルヴァリオは悪くない。彼は心優しい男だと。少なくともここに居る全員は分かっている。


「恐らく、全て終わるまでは2年ほど掛かるらしい」

「まあ、世界規模の事件だったしね」

「で、オルヴァが出られるのも、恐らくそれくらいだ。他の幹部やグロリオは一生投獄レベルだが、オルヴァはエフィリスと俺達の証言と弁護で、早くに解放される」

「……ええ」

「で、どうする?」

「!」


 旅は、終わった。元々、『グレイシア』を巡る旅だった。そして、その目的は達成された。つまり状況は、彼らが出会う前に戻ったのだ。


「事件が解決するまではエヴァルタの屋敷に全員滞在するとして。それからのことだ。一応、俺達でそれを話し合ってから、オルヴァと会うべきだと思う。あいつの為にも」

「…………そうね」


 リディは、実家を捨てた。もう戻れない。オルヴァリオも家が無くなった。シアとサスリカは、そもそも行く宛など無い。

 クリューには、継ぐべき実家がある。


「……あたしは、トレジャーハンターを続けるわ。例えひとりでも。それしかお金を稼ぐ方法を知らないもの。今度の報酬でしばらくは困らないだろうけど」

「そうか。サスリカは?」

『ワタシはますたーに付いて行きます』

「……そうか。シアは?」

「…………」


 先頭を歩くふたりが、振り返る。シアは立ち止まってしまった。


「……皆、バラバラになっちゃうの?」

「…………あんたは、どうするのよクリュー。実家継ぐの? もう冒険は終わり?」

「……取り敢えず、一度実家へは寄る。戻ってすぐ、継げるほど甘くは無い。数年の修行は必要だろうな」

「そうじゃなくて。もうトレジャーハンターはやらないのね?」

「…………」


 クリューは、答えに詰まった。彼も悩んでいるのだ。以前の彼なら即答していただろうが。トレジャーハンターは今や、彼にとって無視できないほど魅力的な選択肢になっている。


「……私、どうしよう」

「シア」

「何にも無いよ。何にもできない。……どうしたら良いかなんて分かんないよ」

「…………」


 このメンバーがバラバラになるなら。一番困るのがシアだ。クリューに付いていけば良いという簡単な話ではない。そもそもまだ返事をしていない。


「恐らくオルヴァは、リディと同じだろう。トレジャーハンターしかやれることがない。帰る家が無くなったからな」

「……そうね。あたしが付いてあげても良いけど。強くなってるみたいだし」

「ああ。それが良さそうだ」

「え?」


 クリューは、ずっと考えていたのだ。トレジャーハンターは魅力的だが、当然ながらシアを危険な目に合わせられる訳がない。彼女の持つ『古代能力』はあの時の一度のみ、あれだけの発動だった。今はもう、ただの普通の娘だ。冒険などできない。


「今回の報酬で、俺は大きな屋敷を建てようと思うんだ」

「?」

「俺達『全員』の、帰る家にする。その屋敷が、俺の家であり、オルヴァ、リディの家だ。いつでも帰ってこい。なんならお前達が取ってきたトレジャー、俺が買おう」

「……!!」


 ずっと、考えていたのだ。

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