第94話 花咲く夜

「……で、結局保留にしちゃったのね」

「…………うん……」 


 その日の夜。リディが使用している寝室に、女性陣が集まっていた。つまりリディ、シアに加えて、エヴァルタとマル、そしておまけでサスリカだ。

 シアはリディのベッドの上で、三角座りをしながら悩みを打ち明けた。


「でも受ける気なんでしょう?」

「!」


 皆にお茶を淹れたエヴァルタが、切り込んだ。


「…………わかんない」


 シアは自分の抱えた両足の間に顔を埋めて答えた。


「クリューが嫌って訳じゃ無いでしょ。毎日あんなに甲斐甲斐しくお世話されちゃって。もうお姫様扱いじゃない。あんなクリュー、見たことないわ」

「そうだよねえ。彼、あんまり表情に出さないし、普段冷静で真面目そうだから、ギャップがあるよねえ」

「そうそう。ああ、本当にこいつ、この子好きだったんだってやっと腹に落ちた感じ。今まで旅の途中で何度も好きだって言ってたけど、普通の顔してすまーして言うんだもん。本当か? って思うわよね」


 リディとエヴァルタがやいのやいのと語る。どんどん、シアの顔は埋もれていく。


「サスリカ。あんたはどう思う?」

『どうせ受けるのなら何故保留にしたのでしょう』

「!」


 サスリカも、ずぶりと切り込んだ。


「ね。薄々感じてたでしょシアも。クリューから好意持たれてるって」

「……うん」

「気付いていながら、毎日一緒に居たのよね」

「……うん」

「クリューは本当に本気よ? 実際あんたはどうなの。シア」

「…………」


 なんというか。シアは、アウェーだった。全員の【心】が、クリューを応援していると伝わってくる。当然だろう。彼は大切な仲間なのだから。


「…………なんていうか。まだもう少し、ふわふわした関係で居たいかな〜って」

「何それ」

「……ぅっ」


 恐らくこれが、カルチャーショックなのだろうとシアは思った。相思相愛だと判明したのならば一緒にならない理由が無い。相手の気持ちが変わる前に行動しなければチャンスを逃してしまうぞ、という圧を感じる。


「…………クリューさんかあ」


 正直、嫌う点が無い。色々と気遣ってくれるし、リハビリに付き合ってくれている。高身長で、筋肉質。シア視点で容姿も好ましい。それが、自分をずっと好いてくれているようで、しかも。

 銃を使う戦士で、頼りになり、家は大商人でそこの長男。

 性格はドが付く真面目で、不貞など彼に限っては決してありえないと、彼を知る全員が口を揃えて断言できる。


「……かっこいいなあ」


 ひと言で感想を言うなら、こうなる。


「はい。もう結論出てるじゃない。明日にでも返事しなさいよ。あいつ、大胆だけど慎重だからね。あんたから返事しないと一生進まないわ」

「…………ぅん」

「さて。じゃあ次はマルね」

「ひぇっ!?」


 不意打ちを食らったように、マルが声を上げた。


「どうなのよ。あのエフィリスは」

「ど、どうって……。どうも、ないわよ。いつも通り」

「それじゃ駄目でしょ。想いは伝えたことあるの?」

「ひっ。……そんなこと。……だって、エフィリスからしたらまだわたしは、子供だもの……」

「今いくつよ」

「……今度、14になるけど」

「ふぅん。もう少し小さいと思った。あたしがそのくらいの頃はもうひとりで旅してたわ」

「で、確かエフィリス君が32? 3? だっけ。倍以上違うねえ」

「でも、もうすぐ大人じゃない。2、3年したら夜這いでもしたら良いと思うわ。……その2、3年で身体付きがもっと大人になれば」

「…………よ、よば」


 マルも、煙が出そうなほど真っ赤になってしまった。


「で。実は私が一番気になってるのが、貴女なのよ。リディちゃん」

「……へっ?」


 キョトンとしたリディに。

 エヴァルタが切り込む。


「オルヴァリオ君でしょ?」

「はあ!?」

「結構バレバレだよねえ? サスリカ」

『ハイ』

「はあ!? 何言ってんの!? ば、馬鹿じゃないの!?」

「あはは。必死になっちゃって」

「いやちょっ。……ちがっ……!」

「あっはっは」


 女性陣の中での、力関係が決定した夜であった。

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