第92話 星の輝く夜
ふたりは時間を忘れて、話していた。気付けばもう、星の輝く夜になっていた。
「……っと。話しすぎたな。まだ目が覚めて間もないのに無理をさせてしまった」
「良いよ。あなた達の言葉も覚えたいし、まだ話したい。ねえ、星が綺麗。ここは空気が澄んでるね」
「……ああ。この屋敷のベランダは広くてな。そこから見る夜空は良い。いつか一緒に見よう」
「じゃ、今が良い」
「……なに」
クリューは、自分を気遣いながら話してくれた。1万年というブランクを気遣い、女性であることを気遣い、最大限もてなそうとしてくれた。それは、シアにも充分伝わってくる。
「だが歩けないだろう。うまく身体が動かない筈だ」
「じゃ、おぶってよ。クリューさん」
「なに……」
それはひとえに、クリューがシアを好いているからだ。だからこんなにも、シアは心地よく時間を過ごせた。
こんな我儘を言えるほど、もう信頼してしまった。
「お腹も空いたし。お手洗いも行きたい。おぶって貰わないと」
「…………仕方ないな。俺も腕怪我してるんだが」
「あっ。ごめんね。痛い?」
「君を担ぐくらいは問題ない」
クリューは困った様子で、だが断れず、やれやれとベッドへ近付いた。
「ほら」
「はーい。……重い?」
「そんな訳無いだろう。君は痩せ過ぎだ。まずは元気になるまで、沢山食べないとな」
「…………はーい」
「じゃあ、ベランダで食事にできるようエヴァルタに頼もうか。サスリカ、伝えてきてくれるか」
『かしこまりました。その間通訳は』
「要らないさ」
シアはクリューの背におぶさって、部屋を出る。逞しい背中だった。現役トレジャーハンターの、危険地帯に鍛えられた肉体。傷跡だらけの男の身体。
「…………アニマが繋いでくれた命だから。私も繋げないといけないよね……」
「? そう言えば、古代語か。シアはトレジャーハンターとしても貢献できそうだな」
呟いてみた。命を繋ぐこと。それはおふざけでもなんでもない。真面目なこと。サスリカによれば、古代人の血は途絶えている。カナタの生まれ変わりという、この世界のギドー家も、血が繋がっている訳ではない。
既に滅んだ世界の希望が。彼女に流れている。
「ここだ」
「!」
ベランダに到着した。シアの視界いっぱいに、満天の星が流れ込んできた。
「わあ……」
感動した。初めて見た星空だ。シロナという、他人の記憶の中にはあるが。『今』の経験に勝るものは無い。
『お食事です。それと、皆様も挨拶をと』
「サスリカ」
次いで、サスリカが皆を連れてやってきた。4人だ。
「よぉ。俺はエフィリス。お前を最初に見付けたトレジャーハンターだ」
「初めまして。あたしはリディ。コレクターよ」
「サーガと申します」
「えっと。ま、マルです……」
今回、一番の大怪我を負ったサーガもこの屋敷で療養していた。最近は、エフィリスとマル、そしてクリューとリディで、事件の後始末を行っている。
「エフィリス。リディ。サーガ。マル」
「一気には覚えられないだろう」
「ううん。これくらいなら。……ねえ、あの人は? カナタ君に似た……えっと、黒髪の」
「オルヴァか」
「! うん。そう、かな」
この場にはあとエヴァルタも居る。だがオルヴァリオは居ない。彼だけ居ない。
シアは気になっていた。シロナの記憶にある、幼馴染みと同じ顔をしていたからだ。
「ネヴァン商会の人間は全員逮捕された。洗脳されていたとは言え奴も例外ではない。教主の息子だからな。今は、国際政府の留置場に居る」
「…………そっか」
「気になるか」
「……うん。まあ一応。私のオリジナルの、知り合いの、生まれ変わりの、子孫だし。……あれ、殆ど他人じゃん。だけど。……気になる」
当然ながら。クリューやリディとしても複雑である。オルヴァリオは利用されただけだ。本当の彼は心優しい、トレジャーハンターに憧れるだけの青年だと彼らは知っている。
「……会いに行こうか」
「良いの?」
「ああ。君が歩けるくらい快復したらな」
「……うん」
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