第39話 ハンターズギルド

「ハンターズギルド。どこの国にも属さない国際組織よ。目的は情報の共有と、トレジャーハンターへの仕事の斡旋。『こんなトレジャーが欲しい』と依頼が出されて、それをこなすって感じね。全ハンターの半数近くが登録してる巨大組織よ」

「全員ではないのか」

「まあ、基本トレジャーハンターって自由が好きだからね。勝手に冒険して、取ってきたトレジャーを市場に出品するだけで成り立つし。実力の無いハンターが助け合う弱い組織だって風潮も無くは無いの。だけど情報は武器よ。どんな武器より強い武器。登録するかどうかは、任せるけど」

「リディは登録してるのか?」

「あたしはコレクターだってば。どっちかって言うと依頼する側。ギルドと取引自体は何度もしたことあるけどね」


 翌日。リディの案内で、ハンターズギルドという建物にやってきた。こちらも巨大な建物だ。世界中にこれがあるらしく、ここはルクシルア支部という。1階はレストランか酒場のようになっており、沢山のトレジャーハンターが談笑したり、商談したりしているのが見える。カウンターの近くには依頼書が貼り付けられており、そこを眺めるハンターも多い。

 オルヴァリオは気分が高揚しているようだった。ギルドはハンターを目指す者にとって特別な場所であるらしい。


「よし。じゃあ早速——」

「ふむ。じゃあ登録はしなくて良いか」

「へっ」


 オルヴァリオが受付へ向かおうとするも、クリューのひと言でぴたりと止まった。


「俺達は『組織』を相手にするんだ。ギルドに迷惑は掛けられないだろう」

「まあそうね。あたし達がネヴァン商会とぶつかることでギルドが狙われることになったら大変だし。あくまで情報収集として利用しましょ。ここでエフィリスと待ち合わせよ」

「……そっか」

「なんだオルヴァ。登録したかったのか」

「そりゃそうだ。ギルドメンバーになれば色んな特典があったりするしよ。依頼斡旋は便利で、安定して稼げたりする。新米ハンターは取り敢えず登録するもんだ」


 オルヴァリオは目に見えて意気消沈していた。クリューはそれを楽しそうにからかう。


「あんた達はもう新米なんて呼べないわよ。少なくとも『中級』レベルの実力はあるわ」

「『中級』? そういやエフィリスも『特級ハンター』とか言ってたな」


 リディの台詞に、クリューが疑問を投げ掛けた。


「トレジャーハンターの実力を一般人向けに分かりやすく示したものね。大きく分けて『下級』『中級』『上級』。例外として、上級の中の上級、『特級』があったりする。細かく分けると『下の下』とか『中の上』とかあるけど。まあ新米、一人前、ベテランて感じね」

「なるほど。やはりエフィリスは特別なんだな」

「そうよ。他にも、ギルドで受けられる依頼に制限があったりするわ。ちょっとその辺細かい規則があるのよ。組織として必要だと思うけど、あたしはちょっとまどろっこしくてね。そういう意味でも、あんまり登録はしたくないわ。会費もあるし、稼ぎの何割かは納めなきゃいけないし」

「ふむ。誰でも手順を踏めばトレジャーハンターができるカリキュラムの組まれた互助組織、か」

「そうそう。上手い例えね。公的機関じゃないから利益優先で、グレーな噂もあったりするわ。あまり近付き過ぎないのが吉ね。レストランは誰でも出入り自由だから、情報収集には向いてるわ」


 席を見付けて座る。ここでエフィリスを待つのだ。


「エフィリスはギルドメンバーなのか」

「そうね。ギルドにとっても手離したくないでしょうし。あそこまで高みに上れば不自由は無いでしょうね。ルクシルアの英雄だもの。ああいうのが居ると、新人は皆こぞって登録するの」


 朝食はここで摂った。また、耳の良いクリューは他の席の会話などに聞き耳を立てていた。『氷漬けの美女』が盗まれたのは一昨日の夜だが、何か有益な情報は無いかと思ったのだ。


「よお。待たせたな」

「!」


 入口がざわついた。英雄の登場は、注目を集める。今更ながら、ここを合流地点にしたのはミスだったかもしれない。


「エフィリス」

「おうクリュー。昨日の今日でどうした」


 エフィリスの座った、あの席の者達は一体何者だ!?

 そんな空気が流れた。

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