第22話 機械の人形

「ここよ」

「?」


 リディが、歩みを止めた。指差す先は、瓦礫の山だった。


「瓦礫じゃないか」

「ええ。部屋があるんだけどね。瓦礫で塞いだの。よく隠せてるでしょ?」

「……ふむ。じゃあこれをどかせば良いのだな」


 聞けば、天井を爆破して埋めた瓦礫らしい。撤去に数時間掛かってしまった。


「……疲れたな」

「お疲れさま。もう通れるわね」


 確かにここまできてこんな重労働をするハンターは居ないだろう。部屋の入口も全く見えなかった為、誰にも気付かれずに今まで隠せていたのだ。


「……さっき休憩した部屋と似てるな」


 部屋へ入る。円形で、中心にテーブルがある。だが入口はここのひとつだけらしい。壁には窓のような枠があるが、何が見える訳もなく真っ黒である。


「座ってる」

「!」


 違うのは、中心の円形テーブルのさらに中心から、柱のようなものが天井まで繋がっており。

 そのテーブルに、人影があった。


「少女……?」


 長い髪。服装はワンピースのようだ。首も腕もだらんとしており、脚はテーブルから投げ出されている。


「ええ。凄くない? とっても精巧な人形。これだけでも価値がありそうなのに。中に機械が入ってるのよ」


 動揺するふたりの脇を抜けて、リディが人形へと近付く。埃が被っているのか、ぽんぽんと頭と肩を叩いて。


「汚れてるけど、青い髪。目は……閉じてるわね。凄く綺麗な顔立ち。今にも動き出しそうなくらいリアル」


 服は虫が食ったのかボロボロだが、人形自体に傷などは無く。眠っているかのように安らかな表情をしていた。


「ほら。低い鼻。小さな口。ちょっと黄色い肌。『グレイシア』に似てる部分があるでしょ? この文明の人達は皆、こんな顔なのよ」

「…………これは驚いたな」

「ああ」


 クリューとオルヴァリオは唖然としていた。人間と同じ大きさの人形さえ見たことが無い。背格好だけで言えば12~15程度の少女の見た目だが、それにしても吃驚である。


「……機械、なのか」

「うん。ほらここ、首の所に管が刺さってるでしょ? なんか天井の装置と繋がってるらしいのよ。これが抜けなくて持ち運べなかったの」

「ふむ……」


 取り敢えず、部屋を隅々まで観察する。黒い窓のある壁にはテーブルが備え付けられており、その上に四角い突起物が整列して付けられている。


「部屋、いや。……遺跡全体が機械なのか? これは、ボタンか」

「なら、この機械もどうにか起動するのか? トラップのように」

「分からんな。適当にいじくり回して変なことになっても敵わん。人形だけひっぺがすのが吉か」

「待てクリュー。無理矢理破壊するのは価値が下がるだろう。時間はあるんだ。色々やってみよう」

「起動するかどうかということか? 操作方法も分からないのに」


 試しに管を引き抜こうとしてみるも、やはり固く抜けない。力付くでやればどこかは破損するだろう。

 しかし完全な状態で残っている人形を破壊することは、トレジャーハンターとしては避けるべきだとオルヴァリオは語る。


「お宝には、番人が付き物だろう。何かの拍子に起動して、襲い掛かって来たらどうする」

「こんな少女には負けないだろ」

「口から火を噴いたら?」

「…………なんとかなるさ」


 少女の外見とは言え、機械である。重さも人間より随分とある。もし敵対的であれば厄介な相手だろう。


「あたしも賛成。こんなに可愛いんだもん。お話したいわよ」

「お話って、リディ」

「あのね。1万年前の生き証人よ? 『グレイシア』についても、氷の解かし方とか知ってるかもしれないじゃない」

「!」


 その言葉で。

 クリューにとっては全てに優先される。一番は『氷漬けの美女』だ。

 その手掛かりになるならば。


「よし。ボタンを押してみるぞ」

「沢山あるが、どれを?」

「手当たり次第、だ」

「えっ。ちょっ。待って。クリュー!」


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