第21話 古代遺跡②

「で、お前が隠した場所へはどのくらいで着くんだ」

「それが結構奥なのよ。まあ、謎解きは既に終わってるからイージーよイージー」

「だと良いがな……」


 未だ見慣れない、白いつるつるの床を歩く。滑るかと思えばそうでもなく、不思議な踏み心地の床である。


「あっ」

「どうした」


 先頭はリディが務めている。驚いた声と共にふたりを止めた。


「床が崩れてるわ」

「……まじか」


 一本道の洞窟のような道だったが、前方の床が崩壊していた。どこまで崩れているのか穴が深くて分からない。


「別の道を探すか? どうにかして飛び越えるか?」

「……崩れた床はその周辺も危険よね」

「遠回りか。一応地図を取りながら進もう」

「クリューあんた地図なんか取れるの?」

「さあな。何もしないよりマシだろう」


 遺跡の内部はとても広い。まるで迷路のように、いくつもの分岐がある。それぞれに即死トラップがあるのだろう。しらみ潰しと言っても、常に命の危険がある。


「止まれっ!」

「!」


 壁から急に、火柱が噴き上がった。クリューが違和感を抱いていなければ、リディとオルヴァリオは黒焦げになっていただろう。


「クリューお前、さっきから勘が冴えてるな」

「目や耳は良いんだ。昔から」

「へえ。それって便利ね。じゃあ先頭頼んだわ」


 リディが背後に回り、クリューの背を叩いた。


「……ああ。任せろ」


 神経を研ぎ澄ませて。トラップの気配を読む。機械が作動する際には、音がするのだ。カチッ、とか。ガチャン、というような。


「…………骨か」

「えっ」


 たまに、動物の骨が散らばっていたりする。中には人骨と思われるものもあった。


「トラップに引っ掛かった者の末路だな。何も分からない動物もいるだろう」

「骨は危険の合図ね。先人のお陰で安全に進めるわ」

「だな」


 静かである。生き物の気配は無い。それが逆に、不気味さを演出していた。


「少し、休憩しようか」

「そうね。なんだか暑くなってきたわ」

「ああ。神経が磨り減りそうだ」


 広い部屋に出た。中心に丸いテーブルがあり、出口がいくつか見える。


「古代人の家だったりするのか? この遺跡は」

「それならあんなトラップばっかにしないでしょ。不便よ」

「住人専用の道があるのかもな。トラップは全部外敵用で」

「あー……」


 リディがテーブルに腰掛ける。オルヴァリオは部屋の様子をうろうろと歩き回って観察していた。


「古代文明か。興味深いよな。この建物の材質だって解明されてない。どうやってこんな巨大な建造物を、材料の運びにくい山の上に建てられたのか」

「なあにオルヴァリオ、あんた考古学者にもなるの?」

「逆に興味沸かないのか? お前は」

「…………」


 オルヴァリオの質問に、リディは考える素振りを見せる。


「まあコレクターだしね。集めるものの作られた背景とかは知りたいわよ」

「だよな。死の危険があろうが、わくわくするものはするんだ。何かお宝になるものがあれば拾って帰ろう」

「殆ど何も落ちてないけどね。あの火柱の装置でも取れたら良いけど、丸焼きは嫌よ」

「確かにめぼしいものは何も残ってないな。最悪はこの壁の破片くらいか」

「そんなのもう価値無いわよ」


 この遺跡は多くのトレジャーハンターが調べ尽くしている。安全に行ける道の上にはもう、お宝などは残されていないのだ。


「人の形をした機械、と言ったな」

「うん」


 壁を背に座ったクリューがぽつりと言った。リディがそれを拾う。

 リディが隠したという、これから回収する予定のお宝である。


「銃とか、工場とか。機械ってのはもう、あたし達の文明でも発達してきてる。同じ規格の商品を大量生産するような目的でね。人間の仕事を自動でやってくれるのが機械。それが、人の形をしてるのよ」

「動いたのか?」

「動いたら連れて帰ってたわよ。1万年前だからね。まあ、なんらかの方法で起動するのかもしれないけど」

「機械の人間、か。なんか不気味だよな」

「でも凄い発見よ。最高級のお宝になる筈」

「出発しよう」

「あはは。100億が近付いて元気出たのかしら」


 クリューはすぐに立ち上がった。

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