第13話 反省会

「しかし、弓って凄いな。いや、リディが凄いのか」

「なによ。褒めてもなんにも出ないわよ」


 火を囲み、焼いた狼肉を食らう3人。クリューはリディの持つアーチェリーにも興味を示していた。


「確か訓練は半年とか言っていたな」

「あー。弓はね。時間が掛かるのよ。『引ける』ようになるまで1ヶ月」

「引ける?」

「ちょっと引いてみる?」


 アーチェリーを貸して貰う。リディの真似をして引こうとするが、張り詰めた弦は彼の思い通りには動かない。


「硬っ!?」

「ね? 殺傷能力を出そうとすると、弓の威力=弦の強さだから。それをまず思い通りに引けるようになるまで1ヶ月」

「……リディは馬鹿力なのか」

「んなわけ無いでしょ。弓に使う筋肉は普段の生活で使わない所なのと、あとはコツを掴むのよ。で、それを1日中引いていても平気になるまで1ヶ月。怪我をしないフォームを固めるまで1ヶ月。矢をつがえて射ち放つ動作の練習で1ヶ月。狙った場所へ飛ばせるようになるまで1ヶ月。そして、戦闘を予想してどんな体勢でも射てるようになるまで1ヶ月。合計で半年ね」

「…………」


 実際に弓を触ってみて分かる。今これを、クリューが扱うことは不可能だ。さらに先程みたレベルの腕前まで上達するとなると。長い長い時間が掛かるだろう。


「リディはずっと弓を使ってきたのか?」

「まあね。家の教育方針ってやつ。まあそのお陰で今助かってるから良いけど」

「なんだ、お前も裕福な家庭だったんじゃないか」


 最初は、ふたりを坊っちゃんだと言ったリディだが。武芸の教育を施せるほどには裕福だったのだと推測できる。

 だがリディは、それを否定した。


「…………違うわよ」

「?」

「ま、とにかく。今日から銃はあんたに預けとくわ。しっかり管理しなさいよね。雪に埋めて火薬濡らさないように」

「ああ任せろ」

「で。……問題はあんたね。オルヴァリオ」

「うっ」


 狼の肉は固く、また獣臭くてふたりにとっては決して美味と言えなかった。だがこれもトレジャーハンターとしての必須項目だと思い、なんとか咀嚼している。


「これから先の危険区域は、あんな狼どころじゃない猛獣が出るわよ」

「分かってる。俺が……しっかりしないとな」

「明日からはあんたの訓練もしないとね」

「え? リディは剣も使えるのか?」

「専門じゃないけどね。コレクターだもの。一通りは扱えるわ」

「まじかよ……」


 経験が違う。歳の頃は殆ど変わらないように見えるが。

 今はリディが、とても頼もしく見えてしまっている。


「俺の銃の訓練は?」

「弾が勿体無いからね。あとは実戦で磨きなさい。銃はそういうものだから」

「分かった。……弓よりぞんざいじゃないか?」

「そっ。そんなことないわよ」


 あんなに上機嫌だったオルヴァリオは、意気消沈していた。剣を持って最前線に居て、1匹も狼を仕留められていない。


「……だから気にしなくて良いってば。人間相手の稽古しかしてこなかったんでしょ?」

「そうだが……やっぱショックだぜ」

「だから、訓練するのよ」

「……ああ。頼む」

「さあ、食べ終わったら寝るわよ」

「見張りは必要か?」

「ユキちゃん達がいるからね。何かあれば吼えてくれるわ」

「優秀だな。雪犬……」


 情けなく思う。今はふたりとも、女性におんぶにだっこである。トレジャーハンターとして。男として。ふがいなく感じている。

 オルヴァリオも覚悟を決めた。

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