第12話 実戦
「おうお前ら。結構派手な音したな。銃ってあんなにうるさいのか」
火を始め、野宿の準備を進めていたオルヴァリオは、ふたりが林から戻ってくるのを確認した。
「呑気なこと言ってないで! 剣抜いて!」
「は?」
何故かふたりとも走っている。
「戦闘だオルヴァ!」
「は?」
その、ふたりの背後に。積もった雪で隠れながら、もこもこと膨らむ小さな影が見えた。
オルヴァリオは立ち上がり、剣を抜いた。
「なんだあれ?」
「狼よ!」
ふたりがテントへと辿り着いたと同時に。
小さな影が3つ、雪の中から飛び出した。
真っ白な雪に解けるような白い毛並みの狼だった。
「くそっ」
「なにがどうなったんだ」
3匹の狼に、テントを囲まれてしまった。
「銃声で刺激しちゃったみたいなのよ」
「じゃあクリューは戦えないのか?」
「そうね。あんたは荷物を守って。狼はあたしとオルヴァリオでやるわよ」
「……ああっ」
即座に連携を確認して、リディもアーチェリーを組み立てる。
「犬が暴れてる!」
「じゃああんたがどうにかして! クリュー! 矢!」
テントから出てきたクリューが、リディの荷物である矢筒を放り投げる。素早くキャッチした彼女はするりと1本の矢を取り出してつがえる。
「まず1匹!」
「は?」
オルヴァリオは、目で追うことができなかった。
きゃいん、と狼の鳴き声がした方を見ると。既に1匹、赤い血を流して倒れていた。
「そっち! オルヴァリオ!」
「……!」
気にしている余裕は無い。食べ物があると判断したのか、狼の1匹がテントへと駆ける。オルヴァリオはとにかく動き、剣を矢鱈に振り回した。
「くそっ! 当たらん!」
狼の動きは機敏で、さらに毛並みが迷彩となっている。獣と戦ったことのないオルヴァリオでは当てられない。
「どきなさい!」
「!」
反射的に、テントと逆方向へと飛び退く。その隙を狙って、黒い線が流れた。
「あと1匹!?」
ひゅん、と風を切る音がした。リディが、2匹目を仕留めたのだ。
「しまった、犬の方へ!」
最後の1匹は、雪犬へと襲い掛かっていた。
「…………!」
リディは射てない。もし犬に当たってしまえば旅は終わる。進むことも戻ることもできずに死ぬだろう。だが狼に殺された場合も同じだ。
「ユキちゃん!」
「ああ」
ズドンと。
バンと。
高らかに爆音が鳴り響いた。
「!」
飛び掛かった狼は空中で崩れ、血を撒き散らしながら落下した。
「……クリュー!」
テントから覗いた腕が、銃を握っていた。
「手元がぶれる弓と違い、銃口に対して真っ直ぐ飛ぶ。威嚇のつもりで当たってしまったがな」
「すごい! あんた才能あるよ!」
「……助かったか」
オルヴァリオはどっと汗が出るのを感じた。肝が冷えたのだ。初めての実戦で。
その場にへたりこんでしまった。
「どうどう。落ち着いて。もう敵は居ないわ。ユキちゃん。シロちゃん。怖かったわね」
「オルヴァ。立てるか?」
「…………ああ。すまん」
足元に突き刺さった矢を見る。狼の身体を貫通している。弓より銃の方が強いという印象だったが、とんでもない。リディの腕前は凄まじいものだった。
「あんたはなんにも良い所なかったわね。オルヴァリオ」
「う……。悪かったよ」
「あはは。いやいや、そんなんもんよ最初は。それより巻き込んで悪かったわね。あの状況だと林を出るしかなくて」
雪犬を落ち着かせたリディが戻ってくる。その手にはクリューが仕留めた狼。
「食うのか?」
「そりゃ、貴重な肉だもん。焼くわよ」
「……美味いのか?」
「味は主観だからあんた達次第よ」
てきぱきとその後の作業もこなすリディを見て、まだ心臓が鳴りやまないオルヴァリオは心底驚いた。
「……情けないな俺は」
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